環境を考えることは「セクシーでクール」?

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欲望の街の住人はエコロジーに夢中

ニューヨーク流 サステイナブル都市論と実践

「成功したい」「夢を叶えたい」
そのためだったら何でもやるのがニューヨーカー。この街はその歴史のはじまりからエグい。17世紀初頭、 新天地を求めてやってきたオランダ系移民は、マンハッタン島をたった24ドル(現在の価値に直すと12 万円相当)でネイティブインディアンから買い上げている。この島がその後、どれほどの「金の実」になった かを振り返れば、「先住民を騙した」と揶揄されて然りなのかもしれない。強欲な元祖ニューヨーカーの DNAがこの地に脈々と受け継がれているのは、押し合いへし合いの競争社会をみれば明らかだ。リーマ ン・ショックも痛い目ではなかったらしい、「強欲は善」という価値観はウォール街でいまだ健在だ。持つ者 はもっともっと欲しがっては富を手に入れる。持たざる者の奮闘も、かなしいかな、体制批判と他力依存に 陥ってゆく。みんな自分のことばかり…。そんなエゴの塊みたいなニューヨーカーが、実はいま、世界のどこ の地域よりもエコに一心不乱に取り組んでいる。こう断言したら、あなたはどう思うだろうか。このエゴの 街に、エコが溢れているといったら、あなたは信じられるだろうか。

「Greener Greater New York」(もっとグリーンで、素晴らしいニューヨークを)をモットーに、サステイ ナブル計画「PlaNYC」を、ニューヨーク市が立ち上げたのは2007年。30年までに温室効果ガス排出量を 05年比で30%、50年までに80%削減をうたい、水道、交通、エネルギー、大気、土壌、廃棄物、住居、コミ ュニティ、公園、公共スペースなど、ありとあらゆる領域から127の課題を設定。森全体を見つつ1本ずつ の木をも見据えた計画を進めている。ニューヨークをニューヨークたらしめるこの野心的な環境改善の実 行策のうち、ここでは自由の女神のように当地の顔になっている五つにフォーカスしてみた。ヒントになる “エコエゴ”が見つかるかも?

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Advocacy: 啓蒙・啓発

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 人々の環境問題に対する意識を高めるために、行 政も民間もさまざまな仕掛けを街中に張り巡らせて いる。たとえば、地下鉄構内やバス停で必ず見かけ る、100万本の植樹を目指す「Million trees NYC」 のポスター。植樹がなぜエコかというと主に四つを 挙げている。(1)二酸化炭素を吸収、気候変動を抑制(2)洪水予防(3)日陰をつくることで都市のヒートアイランド現象を回避(4)虫や鳥の宿り木となり生態系を守る。こうした知識だけではなく、植樹と管理に市民ボランティアを募ることで、無理のないサステ イナブルを可能にしている。木々が増えれば街の景観も美しくなり地元愛も深まる。エコがエゴを満たす活動たるをアドボカシー(啓蒙・啓発)の変わり種には、「Climate Models Calendar」 も。環境関連の研究者たちがオシャレを決め込みポージング。しかしその背景は、山火事の現場 や砂漠化する大地、ハリケーンだらけの気象観測図だったりと、「なんだこれ?」と目を引くもの。 興味と関心を引き、自ら考え、問題解決のためのアクションを起こしてもらうという流れが、アドボカシーに根付いている。「Look at me(私を見て)!」といわんばかりのやり方にニューヨーク流を見た。

Water: 水資源

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 一人のニューヨーカーが1日に使う水の量は、 約480リットル。その量は東京都民の倍以上といわれており、まさに「湯水のごとく」水を使っている。海と川と湾に囲まれた街、ニューヨーク市にいると、「水はあって当たり前。いくらでも使っていい」と思ってしまいがちで、節水の観念が乏しい。さらに都市開発の名のもとに、もともと湿地帯だったマンハッタン島を思うがままに埋め立 て開発してきた歴史があり、水の自然循環機能を破壊してしまった。おかげで、ハリケーン・サンディーで見られたように、水害に弱い都市になった。この反省を生かし、市は、840キロ以上もある海岸線に大規模な防御インフラを建設することよりも、湿地や森を再生し自然の力を取り戻そうと、湿地の水循環機能を再評価し蘇らせることに注力している。また、水源を人的に守るだけでなく、自然の力を応用した雨水管理方法「グリーン・インフラ」を試みるなど余念がない。水に囲まれているからこそ、水の恐ろしさを熟知してい るため、いかに生かすかを念頭に水資源関連のサステイナビリティは具体化している。さらに民間では、イーストリバーやハドソンリバーの汚染水をフィルター浄化し、その河水を利用するプール「+プール」といった計画もある。浮かぶ河水浄化型移動プールは、自分が楽しみながらや るエコといえる。

Bike: 自転車

bike

 ニューヨークは歩ける街だ。地下鉄やバス網も市民の生活を支える足として機能しているので、車社会のアメリカでは珍しい都市。それでもこと自転車に関しては取り組みが遅れていたがこの3、4年で大きく変化している。その二大巨頭が、自転車レーンの設置とシェアバイクシステム「Citi Bike」だ。PlaNYCのもと、グリーンウェイ(自転車・歩行者専用レーン)を2030年までに約3,000キロに拡張する予定で、エコな交通手段である自転車を推奨している。これに伴い、Citi Bikeは2017年までにそ の数を現在1万2,000台、ドックと呼ばれる停留所の数も375ヶ所にすると発表している。自転 車は「エコツール」としてだけでなく、自らの力で動く(こぐ)という点で「D.I.Y.」の象徴でもある。 自転車利用は二酸化炭素(CO2)削減だけではなく、肥満がちなニューヨーカーにも運動の機 会ともなってカロリー削減にも。街にも人にもエネルギー・フレンドリーな自転車。自転車乗りは クール、という見方も手伝って、今後もっと自転車人口は増えていくと予想されている。「かっこい いと思われたいから自転車乗ります」という自己陶酔的な動機でも、上等!

NPO: 非営利団体

npo

  ニューヨークでサステイナブルが可能な理由 の一つに、非営利団体の存在がある。「何が環 境に有害で、どうすべきか」を個人レベルで調べ 実践を考えるのは難しい。しかし、当地、という よりアメリカでは非営利団体が潤沢な資金を持 ち、行政や企業のウォッチドック(番犬)としての 役割を果たしている。サステイナブルをやろうも のなら、行政や企業は年に一度レポートを出し、 改正計画を出さなければ、速攻で叩かれる。非 営利団体が声を上げ、メディアがそれを取り上 げ、市民一人ひとりのアクションにつながるという循環が機能するため、「口先だけのエコ」が通じない。非営利団体には「自分たちが正義を守っ ている、守り抜く」という自負と野心を持っている。非営利団体や環境保護団体は、ときに「過激 過ぎる」といわれるまで、揺るがない信念を持ってエコに取り組んでいる。

Food: 食

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 人間の第一欲求「食欲」。好きなだけ無駄に食べてきたニューヨーカーだが、それをコントロールし、自らの健康欲を優先するように。オーガニックを買うの は当たり前になってきており、価格競争もすでに始まっている。「オーガニックがいい」という欲のもと広く一般に市場が拡大すると、その規定が緩和されてしまう反面もある。それでも、消費者側が貪欲的に食に関して高意識になっているため、「選ぶ力」が強化されるという好循環も生まれた。「そのオーガニックは本当にオーガニックなのか」という厳しい目を持ち、 オーガニック以外にどんなサステイナブルな食材確保が可能なのかという議論も活性化している。生産者の元から消費者の食卓に届くまでが短ければ短いほど、輸送エネルギーやコストの削減にもつながりエコ・フレンドリーであるため、ますます「ローカル、地産地消」が重要視されている。グルメではなくとも、自分が口にするものが地球にも人にも優しいから食べるという選択に意欲的だ。

● 教えてくれた人●
田中めぐみ
ニューヨークを拠点にサステイナブルビジネスに関するリサーチ・コンサルティングを行うFBCサステイナブルソリューションズの代表。エコやサステイナビリティに目覚めてから「調べて選 ぶ 、考えて選ぶため、自主的に生きている実感が高まりました」。2013年に『サステイナブルシティ ニューヨーク 持続可能な社会へ』を出版。
FBC Sustainable Solutions, LLC
fbc-ny.com

Writer: Kei Itaya

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