ニューヨーカーも惚れる、シブいという美意識

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〜いぶし銀な和だんすオタクが語るニッポン〜

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石畳の小道や古い倉庫街が残るブルックリン・ダンボ地区。IT・ハイテクのスタートアップや広告代理店のオフィスも多く、新と旧が調和したエリアだ。映画『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』で知られる、マンハッタンブリッジを一直線に望むワシントンストリートをイーストリバーに向かって南下すると、その和家具屋は突如、現れる。趣のある赤レンガのビルの地下へ続く階段を降りてドアを開けると、赤茶色をした和だんすの群れが目に飛び込んでくる。アンティーク和だんす専門店「渋 – SHIBUI」に流れる雰囲気と時間は、外とまったく違う。静謐なこの空間で、100年もの歴史を刻んできた和だんすたちが、静かに語り合っているからだろうか。

和だんす一筋、20年。元・金細工師は、いぶし銀

「シブい」
 私たち日本人がこの言葉を使うとき、粋なものへの愛着と敬意を込めるはずだ。このニュアンスを英語に置き換えようものなら、なかなか適当な単語が見当たらない。世界最大の英語辞典といわれる『オックスフォード英語辞典』は、この形容詞をそのままローマ字で「SHIBUI」と掲載。厳かな静けさと深みを持ったものや人を表すこの言葉、「渋い」。華やかな美しさではなく、味のある美しさをよしとするこの言葉の懐は広い。

「店の名を決めたとき、この単語にこんなにも深い意味があるとは思ってもみなかった」

 苦笑いでそう打ち明けるのは、店主のDane Owen(デイン・オーウェン)。和だんす一筋、20年。江戸、明治、大正時代のそれに惚れ込み、収集を開始。大学生のころ、250ドル(約3万円)で開業した彼の美の原点は、金細工師だった父と、生け花をたしなんでいた母。また、彼が幼少期を過ごしたカリフォルニア州パサデナは、19世紀末に行われたシカゴ万博以来、日本の建築スタイルを取り入れた家屋が多く建った。「私にとっての日本はカリフォルニアでした」とデインは懐古する。

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自然には適わない。鎖国が生んだ「極み」

 職人である父の仕事、母の生ける花を通して、彼は「美がどうデザインされるのか」を熟知していく。そうして10歳になるころには、金の指輪を自分で作るまでになった。だからデインには自然にわかる、いいデザインと悪いデザインの違いが。機能性と美を兼ね備えたデザインのものは壊れない。ずっと同じ姿を保つ。「和だんすをみていると、ほれぼれします。職人たちは知っているんです、自然に適う機能美はないと。伸縮する木の特性を生かし、留め具の締め具合を調整して“ゆるみ”を持たせるといった、自然に逆らわないデザインを仕込む。だからこのたんすたちは、生き生きと100年以上もっているんです」

 一番美しいものは自然によって作られたもの、二番目は人が自然とともに作ったものと定義するデイン。「たとえば陶器。土の風合いや焼き上がりの妙を良しとし、『味がある、シブい』と愛でます。一方、欧米は、どちらかといえば自然に逆らいます。『まったく同じものを大量に』で、市場競争を走ってきたがゆえの感性。しかし、ここにある和だんすをはじめ、日本は鎖国していたため、対外競争を視野に入れず、内部競争はあったとしても同じ価値観の中で『ひとつを極める』ことができた。日本のデザインやものが優れているのは、無駄なものを省いて削って辿り着いた『ミニマルな美しさ』を持つゆえだ」。匠や職人たちのDNAに、デザインやものへの向き合い方が脈々と流れていて、日本人にも自然にそれを味わう、侘び寂びや渋み、という感性があるという。

 日本よりも100年ちかく前に産業革命を経験した西欧諸国のもの作りの基本は、自然をコントロールすること。効率主義と大量生産が主流となり、手間ひまかけた手作りのシブい、味のあるものを絶滅させてしまった。一方、日本では「木にも森にも風にも川にも霊が宿る」と、森羅万象に霊が宿るという自然崇拝、アニミズム的メンタリティがいまだにある。だから一層、「ものを大切にする心」も身につく。ものを消費するよりも、大切に使い続ける、という意識が働く。

すべての家具に物語がある。「マイノリティ」でいい

 そうはいっても日本人もその心、忘れがちではないか聞くと、「そんなことはない。あるとすれば」と前置きし「ものに霊が宿るという考えがあるから、日本人には『誰が使っていたかわからないものは、なんかイヤ』ってのがあるかもしれないね。ここ(アメリカ)では特にそういう迷信じみたことは考えもしないし、むしろ歴史が浅いから、古いものへの憧れもありマーケットはある」という。そして、怖い、気味悪い、と決め込んでしまう前に、一度「じっくり見てみる」ことをデインはすすめる。

「家具を知ると、歴史を含め、風土や習慣、生活レベルが見えてくるんです。一度知ったら、あれは?これは?って興味の連鎖でどんどん調べてしまいます。僕は日本語は話せませんが、和だんす用語は普通の日本人よりも知ってますよ」と笑った。和だんすの留め具で時代背景も見えてくる。「たとえば、この二つのたんす、作られた場所は同じですが、作られた年代が違います。こっちは留め具が大きいでしょう。つまりは、鉄が高価なものではなくなった、ということです。また、ぜいたくを禁ずる奢侈禁止令があって装飾がまったくない時代と、金具や留め具を飾ってステータスを象徴する時代のものでは、まったく違う顔をしています」。いとおしそうに和だんすを見つめながら話すデイン。「さっきのおばけの話ですがね。こうして大切に扱っていれば、宿っている霊もきっと悪さはしませんよ」

 持ち前の探究心にますます火がついて、デインは古い書物や絵本の蒐集にも手をつけてしまっている。商品である和だんすの戸を開けると、出てくる出てくる、書類や写真の山!彼はひとつの本を開き、「ほら、和だんすの挿絵がある。たんすが主役になる本は専門書以外ないけれど、こうした普通の書籍や雑誌の中で和だんすがあると、これも当時の様子を物語ってくれる材料になるんです」

 和だんすビジネスをはじめて20年。「最近はまったく儲かりません。ビンボーです」と笑うが、それでも続けるのにはワケがある。「価値がわからない人がいていい。ただ、僕は良さを知っている。知っている人は知っている。僕らはマイノリティでもいいんです」という言葉に、逆に強さを感じた。また、若いスタッフが古い写真や資料を仕分けし整頓しているのを見ると、着々と「シブい」を「awesome(かっこいい)」と感じる世代が育っているのではと胸が踊る。

 SHIBUIは駆け込み寺だ。せわしないニューヨークのストリートから息も切れ切れ、店の中に入ると、心地良い、凛とした空気に触れることができるからだ。これからもデインは、このダンボの一角でひっそりと、しかし存在感を放ちながら、和だんすを通して、日本の「渋さ」を伝導してくれるのだろう。

SHIBUI
38 Washington St, Brooklyn(at Water St.)
TEL: 718-875-1119
shibui.com

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