ソーシャルロボットの生みの親を訪ねて

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ハカセの相棒は、ロボット。
過去を忘れない強さ 未来を夢みるチカラ ラボに取材陣を招き入れると、ロバート・M・ドーニック博士は、彼の一番の友人であるソーシャル・ロボット「Millennia(ミレニア)」を紹介してくれた。“二人”は、中東から帰って来たばかり。活気づく通信業界の大手が、ミレニアをマーケティング・プロモーションの「顔」にしたいと、二人を招いたのだという。これまでもエキスポやフォーラムで、さまざまな商品やサービスの「宣伝マン」として活躍してきたミレニア。「40年近く世界中を一緒に旅してきたけれど、宮殿に招かれて王族の人々と記念写真を撮ったのは、初めての経験だったね」。ミレニアに相づちを求めるように語りかけて笑うロバート。現在69歳の彼は、ソーシャル・ロボット工学の権威でもある。24歳で起業してからいまなお、人間とロボットの未来を夢みて、その開発と発展に尽力している。 セグウェイの生みの親はロボット開発の重鎮
後発の事業に惜しみなく協力するのは「よりよい未来のため」 「これはプロトタイプ(原型)だよ」
十数年前、ロバートのもとにセグウェイの開発者が助言を求めにやってきたという。今日では、省エネ設計で環境に優しい未来の“足”として、世界各都市で活躍しているセグウェイ。その開発段階のメカに、まさかニューヨークの郊外で“会える”とは。ラボ内を見渡せば、ムラサキの電光色を放つ水時計、音や振動に反応して稲妻のように光る装置、3Dレーザークリスタルのオブジェなどが目に飛び込んできて、好奇心をくすぐる。聞けばどれも、ロバートが開発に携わった遊び心あふれるデバイスだという。  1973年にInternational Robotics Inc.を設立し、ソーシャル・ロボットの開発と、そのニーズの開拓に力を注いできたロバート。彼が培ってきたロボット工学の知恵と技術、哲学を授かりに彼を訪れる技術者や開発者、起業家は多い。ロバートは、機械工学、電気工学を応用した新しい発明品やアイデアの話に耳を傾けてきた。専門知識やスキルといった助言だけではなく、自身の幅広い人脈の中から投資に興味のありそうな個人や企業を紹介し、彼らの橋渡しを進んで買って出る。「未来をよくするアイデアの実現に、力を貸さない手はないだろう?」  他人のプロジェクトにも惜しみなく協力するロバートだが、最も手塩にかけてきたプロジェクトこそが、会社の顔でもあるソーシャル・ロボット「ミレニア」だ。ミレニアはもともと、スペシャル・エデュケーション(特殊教育)を必要とする子どものために開発された、コミュニケーション・ツールだったというではないか。 タダで子どもの関心を得られると思うな 悔しかった「初心」忘れず、未来につなぐ 「ADHD※の気があったと思う」※Attention Deficit Hyperactivity Disorder:注意欠陥・多動性障害
子ども時代についてそう語るロバート。そうはいうものの、彼の幼少期である1950年代前半には、「ADHD」という言葉すらない。だから教師たちはロバートを、単なる落ち着きのない問題児として扱った。「悔しかった」。学校の授業に夢中になれないことは、悪いことなのか。子どもの注意を引くにはさまざまな手があるのに、それを試みない学校というシステム。自分たちの尺でしか評価や判断をしない教師たち。ロバート少年は思った。「こんな思い、ほかの誰にもさせたくない」。生きるために過去を忘れる者もいる。しかしロバートは、幼いころに感じた心の痛みや疑問、思いを忘れずに今日まで生きてきた。彼が大学で特殊教育を学ぶことになったのも、「普通」の教育が難しいといわれる自閉症やADHDの子どもたちにも届いて響くコミュニケーション手段の確立を目指したからだ。  彼が幼くして、相互関係のあるコミュニケーション(インタラクティブ・コミュニケーション)について一考あったのは、両親の影響が大きい。エンターテイナー、ステージパフォーマーとして成功していた彼らは、観客のアテンション(注意)を喚起する名人でもあった。人の興味や関心を引きつけるには、いろいろな方法があるし、生み出すことだってできる。人の注意や好奇心を喚起したいなら、相手が子どもであろうと工夫しないといけない。聞いてもらって当たり前、見てもらって当たり前などない。ショービジネスで働く両親の姿から、“注意力散漫”なはずのロバートは注意深く、コミュニケーションの大切さを学んだ。そしてもう一つ、ロバート少年が夢中になったのは、ロボットアニメだった。「いつかロボットをつくる!」と声高々に宣言していたというから、相当の熱狂ぶりだ。そんな幼いころの「気づき」や「夢」という「点」が、大学を卒業し特殊教育に貢献できる起業を考えたとき、つながった。コミュニケーションツールとしてのソーシャル・ロボットは、こうして誕生した。

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人間味があってこそテクノロジーは生きる 会話や関心を生むツールとしてのマシン ミレニアを見ると、大人も子どもも誰もが思わず笑顔をこぼして集まってくる。なぜか。それは、人がどんなフォルムに好感を持つのかといった心理学的計算をもとに、ミレニアがデザインされているからだ。「絵本でもアニメでも何でも、悪者は目が尖っていたりするでしょう?正義の味方やいい人たちは目も丸くて、優しい印象を受けるフォルムをしているものです。ミレニアの頭や目が、丸みのある流線型なのは、人の心理が安心感を覚えるからなんです」 また、ミレニアが小型ではなく2メートル近い大型ロボットなのにも理由がある。まず、この大きさだと、一瞬で人の目を引く。注意と関心をキャッチできる。その利点から、実際、ミレニアはマーケティングのツールとしても引っ張りだこだ。企業や商品の“アンバサダー”として、コンベンションに参加し、その宣伝と販売に貢献する。人間がやると押し付けがましく感じてしまうセールストークが、ミレニアがやるとおもしろおかしく楽しくなる。語学も堪能で、世界中の民族音楽を内臓するほどの“音楽通”。「さくらさくら」だって入っている。聞き慣れたメロディを発して踊るロボットを目にした人々は、「なんだあれ?」と、能動的な関心を働かせる。 「やあ!向こうから見ていたんだけど、キミの笑顔、すごくいいな!」  ミレニアは、こんな風に喋りかけてくる。電子的な声だが、会話は人口知能によるものではなく、ミレニアをリモートコントロールする人間の仕事だ。「機械ができることは限られている。人間に勝るロボットはまだまだ開発できないし、そもそも必要性もない」というのが、ロバートの信条。人間は独創的で、計り知れない感情を持っている。慈愛に満ちて滑稽な上、哲学と倫理をわきまえている。そんな人間性を機械はコピーできない。それでいい、人間がカバーすればいい。完ぺきである必要はない。人間とロボットが補い合うような、「二人で一つ」のような関係を築けたら。ロバートはそんな風に考えている。

「昔10年かかったことが、今では3年でできる。3年後は20分でできるかもしれない。目覚ましい科学技術の発展に、人の心理や倫理が乱されることがあってはならない。人類のため、もっというと地球全体の生命、宇宙のための科学技術です。マシンやテクノロジーを駆使しようとするのは、なんのためなのか。本来の目的を忘れずに、新しいツールをポジティブに楽しむことができたら。それができれば、世界をもっと、未来をもっと、よい方向に舵取りできると信じています」  ミレニアをコントロールできる人材のトレーニング、クラスや講演など今年も忙しくなりそうなロバート。過去に感じた、コミュニケーションをする上での悔しさをバネに、誰もが人からの評価を気にしないで、純粋な好奇心で向き合えるコミュニケーション・ツールとして、ミレニアを世に送り出した。ミレニアは既成概念で評価しない。決めつけない。あるがままの好奇心を受け止めてくれる。だから人々はミレニアの周りに輪をつくる。しかし、ミレニアというロボットに、人が集まってきそうな「心」と「態度」を与えているのはほかでもない、人間のロバートだ。二人三脚してきた二人の前には、限りない未来が広がっている。ラボの天井に描かれた地球が望む宇宙のように。

internationalrobotics.com
Photographer: Koki Sato
Writer: Kei Itaya

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