政府公認のサイボーグ男が仲間と会社設立して目論み中。「人類サイボーグ化計画」

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生身の人間と、テクノロジーを融合させたサイボーグ。
「所詮、映画や漫画の世界。遠い未来の話よねぇ」なんて思っていたら、政府が認めた正真正銘のサイボーグが、ニューヨークにいた。その男は、後頭部からニョキッと飛び出すアンテナを指差し、

「I don’t wear technology. I am technology.
(テクノロジーを装着してるんじゃなくて、僕自身がテクノロジーなんだ)」

と真顔で言い切る。しかも会社まで設立して、その数を増やそうと企んでいるらしい。

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パスポート写真も「アンテナ」装着

 そのサイボーグの名はNeil Harbisson(ニール・ハービソン)。完全な色盲として生まれ、11歳まで“白黒”の世界で育った。「いつもモノクロ、コピー代は安く済ませてラッキーだったよ」と冗談を飛ばすこの男、21歳のときに頭蓋骨に装着した「アンテナ」により、色を識別できるようになった。

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 仕組みはこうだ。チョウチンアンコウの様なアンテナが捉えた光の波長を「周波数の音」へと変換、後頭部に埋め込んだチップからの骨伝導を通し「色を聞いて感じている」。つまり、音の高低差で何色かを判別しているのだ。いまでは丸く一周する色相環360種類の色を聞き分けられる(ビビットな色が揃うスーパーの洗剤売り場の音は、賑やかでまるでクラブ状態なんだと)。
 また、慣れてくると「色から音」だけでなく、「音から色」への逆変換まで可能に。さらには人間が視覚的に認識できない、赤外線や紫外線まで感知(!?)完全に人間の目を超えているのである。

 12年間つけっぱなし。「シャワーするときも寝るときも、全然邪魔じゃない」そのアンテナは、もはや身体の一部。その証拠に、アンテナを装着したままの証明写真を使ったパスポートまで発行。政府も公認、正真正銘のサイボーグというわけだ。

 と、ここまでは2012年出演の「テッドトーク」ですでにご存知の方も多いかもしれない。が、現在は拠点をロンドンからニューヨークに移し、「新たな目論見」を企んでいるとの噂を聞きつけた。

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“噂の大統領候補”と“ヒトラー”の演説の色、激似

 現実世界のみならず、ベッドで見る夢までがカラーの世界になったニール。「イエローキャブのクラクションは、“Gシャープ”の黄色と緑。もう大分古い地下鉄のキキーッというあの音は、レインボー」と、新たな拠点ニューヨークの「色」を話してくれた。
 特にお気に入りは朝方4時のタイムズスクエア。巨大スクリーンに映し出される広告の「音」は毎秒変わる。人もいないし、いくつかのコンサートが同時開催されているような、賑やかなオーケストラを独り占めしているに気分になるという。

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 興味深いのが、大統領候補ドナルド・トランプ氏の演説の「色」。それは支配的な色と不穏な色のコンビネーションで、「実は、ヒトラーのスピーチの色ととても似ているんだ」。

 色から音、音から色に変換なんて、ニールにしかないできない。羨ましいですよ、その才能。なんて話していると、「これはtalent(才能)じゃない。sense(感覚)なんだ」と目を輝かせた。

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ブランド立ち上げに、ネット接続。進化が止まらない

 アンテナ装着前は店員に色を尋ねて、白か黒の洋服ばかりを選んでいたが、いまではすべて自分でチョイス。「まるでミュージカルを着ている気分さ」。古着屋で買ったという、無数の花が刺繍された玉虫色のジャケットを着こなすニールは、いつもお洒落だ。
 甲高い“Cシャープ”のロイヤルブルーのシャツや、低い“FシャープとFの中間”のバーガンディのパンツだって上手く着こなす。ちなみに今日の靴は、ニールが人生で初めて認識した色、“F”のレッドだ。

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 そんな彼は現在、若干16歳のデザイナーと共にファッションブランド「H+C(HumanとCyborgの頭文字。かつ2人の名前の頭文字のダブルミーニング)」の立ち上げに向け取り組んでいる。サイボーグと一般人向けに、文字通り「Sounds good」な2ラインを展開予定だ。また、シューズブランドArrels Barcelonaとコラボレーションし、彼が聴く音でデザインされた靴も発売予定。

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 精を出しているのはファッションだけではない。なんと装着されたアンテナ、インターネット接続が可能になったのだ。たとえば、誰かがネットを介しニールに色を送信、すると彼はその色を聴くことができる。さらに画像を送信すれば、ニューヨークにいながらオーストラリアの夕焼けを聴くことだってできるという。まるでパソコンをアップデートするかの様に、彼は4年前から確実に進化しているのだ。

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スマホ依存の私たちも、立派なサイボーグ?

「テクノロジーを駆使することは、もうアイデアではなく選択肢」。そう熱っぽく喋るニールは現在、サイボーグになりたい人をサポートする「サイボーグ・ファンデーション(NPO団体)」と、そのサイボーグの感覚を創造するための会社「サイボーグネスト」で、サイボーグを推進するべく活動している。

「だってね、スマホ用アプリより人間のためのアプリのほうが、ずっと効率がいいと思わない?」。自身のアンテナをアプリにたとえたその言葉に、妙に納得できた。スマホなしの生活は「多分、無理」な現代人。極端に言えば、それはもう“身体の一部”で、なければ“違和感”を感じてしまう。とすれば、私たちはすでにスマホというテクノロジーの力を借りて、自分の感覚を拡張していることになる。そう考えると、この「人類サイボーグ化計画」は理にかなっている、気がする。

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 正直、取材しつつもどこかで「そんなのありっこない」と思っていた。が、「感覚を拡張できれば、知識だって拡大できるんです」と彼の実体験に裏打ちされた説得力と強い野望に、サイボークとしての新しい可能性を感じずにはいられなかった。ふむ、生身の人間とサイボーグが混在する社会、それは決して遠い未来の話ではない。だって、目の前で熱弁をふるうその男は、正真正銘のサイボーグだったんだから。

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Neil Harbisson

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Photos by Kohei Kawashima
Text by Yu Takamichi

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