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  • Nov 13, 2015
フランス市民に、ケールを。現代のフランス「ケール革命」
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たった一人のアメリカ人女性による、フランス「ケール革命」

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夫の転勤で、突然ニューヨークからパリへと移住。そこで待ち受けてたのは、もちろん言語の壁。そして同じほど痛手だったのが、手に入る「食材の違い」。アメリカではどこででも手に入る“あの緑の野菜”が、見当たらない。「どうして、どこにもケールが売ってないの?!」
これは、Kristen Beddard(クリスティン・ベダード)という米国人女性による、ケールを売らない異国フランスでのたった一人の挑戦の物語。
「ケールという野菜を、フランス市民に」。その名も「Kale Project(ケール・プロジェクト)」。

「フランス人はケールを食べないの?」

6786730544_f95f4e1d4c_z Photo by Tracy Benjamin

 体調不良にケール、美容にケール、がん予防にケール、という神っぷり。「ケール』という名の緑の葉っぱは、スーパーフードとしてアメリカではすっかり定着した。海外セレブの御用たしということで日本でも人気が高まっている。オーガニックスーパーではもちろん、季節を問わず「どこでも手に入るもの」。そう信じてやまなかったが…。
「なんで、フランスにはケールがどこにも売ってないの?!」。2011年の末、パリへと移住したクリスティンは、街中のスーパーマーケットを駆けまわった。
 フラれ続けた最後、もしかしたらファーマーズ・マーケットにならあるかも。期待に胸を膨らませ、早朝のマーケットへ行き、片言のフランス語で「ケールは育てていますか?」と聞くも、首を横に振られるだけだった。

「たかが、ケールごときで…って思うでしょ?けれど、あの頃の私は、言葉も違う慣れない土地で、せめて『食べ物だけは、同じモノが食べたい…』って躍起になったのよ」と、4年前を振り返る。手に入らないことにイラつく、というよりは、単純に不思議だった。ここは世界三大料理の一つを誇る国、食通もごまんといる。「フランス人はケール食べない…なんてことないよね?」。インターネットに答えを求めると、「いたの!私と同じ疑問を持っている人たちが!」。たった一人のケール革命「ケール・プロジェクト」がはじまった。

「アメリカ人がフランス人の食生活に口出しするなんて百万年早い」?

 2012年9月、フランスにケールを普及すべく、ケール・プロジェクトを開始。とはいえ、パリとは縁もゆかりも、“つながり”もなかった彼女。まず、「協力してくれそうな人探し」からはじめた。SNSを使って、パリ近郊に住む、“農業に携わる人たち”にコンタクト。また、ローカルファームへも赴き、「ケールを作っていただけないでしょうか」と、直接話を持ちかけた。
 だが、「需要がないものを作っている余裕はなくてねぇ…」。反応は芳しいものではなかった。しかし、「ケールほどのスーパーフードの需要がないわけない」。彼女には確信があった。つまり「需要があれば、作ってもらえるってことでしょ!」
 
 ということで、パリでの「需要づくり」に励むことにしたクリスティン。オーガニック・スーパーやレストランにケールの取り扱いを掛け合った。「応援するよ」と快諾してくれる人もいる一方で、辛辣な言葉もあびせられた。
「ジャンクフードばかり食べているアメリカ人が、フランス人の食生活に口出しするなんて、勘違いも甚だしい」「アメリカ人に“何がヘルシーか”を教えられる筋合いはないわ」。フランス人の食生活を否定するつもりも、押し付けるつもりもなんてないのに…。言葉の壁なのか、文化の壁なのか、想いはなかなか伝わらなかった。

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季節を問わず「ケールよ、こんにちは」までに

 しかし、プロジェクト開始から半年が過ぎた頃、彼女の地道な営業が実を結びはじめる。「ケール、いいわね。うちでデモンストレーションやらない?」と誘われ、クリスティンはカフェでサラダや自家製のケール・チップス(ケールをオーブンでかりかりに焼いたもの。ヘルシーで女性からの人気が高い)を販売するように。また、パリ内の人気レストランや、中にはミシュランスターシェフからも、「是非、オーガニック・ケールをつかった料理を考案したい」と前向きな反応が返ってきた。

 こうして、「スターシェフもケールに注目!」などと、メディアに取り上げられることも増え、2014年の夏頃にはオーガニック・スーパーだけでなく、商店街などでも、季節を問わずケールが手に入るようになった。「私が予想していた以上の広がりを感じました。と同時に、もうやれることはやりきったな」と、達成感をおぼえた。
 当時、ケールチップスやジュースといった自分のプロダクトを生産してマネタイズする、ということも勧められたという。しかし「リサーチや考察を繰り返した結果、それはやらない、と決めた」。彼女が選んだのは、「約3年に渡る、このゼロからのフランスでの経験を一冊の本にまとめること」だった。(2016年5月出版予定『Bonjour Kale 』。サガンの『Bonjor Tristesse(悲しみよ、こんにちは)』のように、ベストセラーになりますよう)。

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“執着しない”も、オーガニックライフ

 執筆も終盤をむかえた現在、彼女は一児のママになっていた。4年前、夫の転勤のために、好きだった広告の仕事を辞めた。フランスでもきっとなんとかなる、と職探しに勤しむも「ビジネスレベルのフランス語ができないとお話にもならず…。生き甲斐、というと大袈裟かもしれないけれど、何かやりがいのあることをしたくてしょうがなかった」

 空いた時間と心の穴を埋めるように、ケールに夢中になったクリスティン。「人並みには、仕事もビジネスも好きだったけれど、『自分で起業する、しかもケールで』なんて夢にもみたことなかったわ」。つくづく、人生というのは何が起こるかわからないものだ。
 言葉も通じない異国で新たな食文化を定着させる。それは並大抵のことではない。そのことを自負しているのか、と聞くと、「(私の力というよりは)ケールはやっぱり万能ですから」とのこと。需要と供給のバランス、育つ環境を整えて種さえ植えれば、「ケールも文化も自然に育ちます。サステイナブルなサイクルを構築するために、私はちょっとお手伝いをしただけ。フランスでのケール文化のオーガニックな成長を応援し続けていきます」と締めくくった。熟した食文化をもつ現代のフランスで、数年前まで見つかりもしなかったケールがここまで広まったのだ。クリスティ本人の謙虚をさし置いて、「このとっても体にいいケールという野菜はね…」と、たった一人のアメリカ人女性によるケール革命がいつかフランスの食卓で語られるかもしれない。


Photographer: Kevin German
Writer: Chiyo Yamauchi

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