「可視化されていない時代の感覚を、僕らはどう言語化していくか」トライ&エラーを協働する企業と編集者、ソニー×若林恵

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「そもそもね、僕らに“伝えたいことがあってはじめた”、というわけではないんですよ」。

企業の伝えたいことを、より魅力的に言語化して届けるために〈企業と編集者〉が組むことは、近年の常套。その関わり方を大きく飛び越えて「何がくるのか、どうなるのかわからない」という未知数をおもしろがり、トライ&エラーをともにする。企業と編集者の新しいタッグで実現しているのが「trialog(トライアログ)」だ。

trialogとは?

現在の社会のあり方や複雑性と向かい合い、実在する希望を見出し、そこから未来について考える。その実験の場として、世の中を分断する「二項対立」から脱却し、未来をつくるための「三者対話」をおこなう空間。

多岐に渡るテーマをもとに、ジャンルや国境を超えた三者三様の登壇者が、参加者とともに「ほんとうに欲しい未来」を考えることが目的。

これまでに7回をおこない、そのテーマは「TEAM BUILDING(チームビルディング)」「SELF STUDY(独学)」「FINANCE & WORK(お金と仕事)」と多岐にわたる。

冒頭の言葉は、ソニーでブランド戦略部に所属する、小堀弘貴。「テクノロジーから未来を考えはじめるのではなくて」と、あらためて企業としてあり方を模索するために組んでいるのが、コンテンツレーベル「blkswn(黒鳥社)」率いる、編集者・若林恵だ。

伝えたいことよりも、ともに模索し、考える。その未知数のトライアルに、二者はどう協働しているのか? 毎回の「ほんとうに欲しい未来を考える三者対話」trialogを生む前の、〈企業と編集者の対話〉をのぞく。

***

HEAPS(以下、H):さっそく本題的なところからなんですが。企業と編集者が組むのってここ数年で確立されてますよね。その主たるものがタイアップ記事とかオウンドメディアで、ざっくりといえば「企業の伝えたいことを伝える」をやる。 でも、trialogはもっと根本的なものを「探っていく」という機能が強いと感じます。
小堀さん、ソニーは、なぜ若林さんと組もうと?「編集者」という職種の人間に、何を期待していたんですか?

若林(以下、若):あはは。それ聞きたいです。

小堀(以下、小):新しいソニーのファンづくりに協力してもらいたい、というところが発端です。なので、そもそも、僕らに何か伝えたいことがあって若林さんに声をかけたのではない、ということが一つ。「これからの時代を作っていく、ファンをつくっていきたい」。それを一緒にやりませんか、と。


ソニー ブランド戦略部 小堀弘貴(こぼり・ひろたか)

H:2017年のSXSW*がきっかけだったと他の記事で読みました。

小:SXSWの展示を若林さんに直接見に来てもらって、率直な意見をもらったんですよ。

*毎年3月に米テキサス州オースティンで開催される音楽・映画・インタラクティブをテーマにしたデジタルテクノロジーの祭典。元々はミュージックフェスとしてはじまり、いまでは世界最先端の総合芸術イベントとして全世界から20万人以上の参加者が訪れる。世界中の企業がブースを出展するほか、毎年「未来」へ対するビジョンが熱く討論されることでも知られている。

H:「メッセージが伝わってこない」でしたよね。その意見をきっかけに、trialogをスタートするまでにどんな会話を重ねたんでしょう。

若:SXSWでのブースそのものはおもしろい展示でしたし、いいアイデアはたくさんあったと思います。ただ、「それをどう価値化するか」というところに困難があったように思います。というのもできあがった商品をそこ(SXSW)で展示していたわけではないですから、そこにどういうメッセージを込めるのかって難しいんだと思うんです。なので、やはり現状の社会の複雑さにまずはちゃんと向き合うところからはじめるのが大事かな、と。


編集者 若林恵(わかばやし・けい)

H:複雑さ。

若:ビジネスの空間での企業のメッセージ性って、以前ですとポリティカルな意味でニュートラルであることが前提だったはずなんですが、やはりトランプ大統領以降の世界では、それも難しくなってきてると思うんですよ。「みんなのため」って言っても、その「みんな」には誰が含まれているのかが問題になってるわけですから、企業としても誰をエンドースするのか、誰の暮らしをサポートするのかを、ちゃんと見定めていかないといけないのかな、と。

小:誰の暮らしを応援するのか、うちでいうと、誰のためのテクノロジーなのかをちゃんと決めないといけない、と。

若:ですね。しかもそれをマーケティングの観点からではなく、やらないといけないような気がします。

H:どういうことでしょう?

若:ちょっと抽象的な言い方になりますけど、カルチャーをつくっていかないとなのかな、と。言葉だけで語ってもダメなんだと思うんですよね。カルチャーって、「言わずとも、オレらがどっちにいるかはわかるよね」っていうやり方で、ふんわりと人を束ねるものだと思うんです。雰囲気というか、ノリというか、気分というか、そういうものの総体として、ひとつの圏をつくるというか。ソニーのまわりにそういう新しい「気分」をまとわせたいんですね。

小:もともとは次のSXSWで何かできれば、という話をしていた背景があったんですが、SXSWとは別に、新しいコミュニケーションをはじめることで、これからのソニーファンをつくっていきたい、と。僕らは、テクノロジーでこれからの未来を提示していきたい。そして、誰に向けて未来を提示していきたいのか。それを議論したとき、「待っていれば未来は訪れる」と思っている人たちではないんだろうなと。「自らが未来を創る」と思う人たちではないかと。ただ、そういう人たちがどこにいるのかわからない。だったら、向こうから集うような場所を自分たちでつくろうというのが、最終的にtrialogに繋がっていきましたね。

H:場所をつくっていくのに、若林さんという編集者を必要としたのは?

小:やっぱり、社会の流れや温度感を人文系の視点で敏感に見ているところですね。ソニーはテクノロジーの会社ですから、やっぱり価値観が理系的なんですよ。だから、それらを両立させることはすごく大事だと思ってます。

若:いま日本の会社って、人文っぽい価値を置いておける場所が本当にないんですよ。全部、数字の論理でいっちゃうので、法務ではないもっと人文的な観点から「それNGですよ」みたいなことを言える部署って、企業の中にないも同然なんですよね。

小:それは確かにそうかもしれないですね。

H:若林さん自身では、編集者ってどういう人種で、それがどう企業に価値をもたらせると思っています?

若:編集者っていうのは、基本的にやっぱり時代の空気を読む仕事なんですよ。これがイケてるとか、あれはもうダサいとか、そういう微妙な揺らぎを見ているのと、世の中にある「論点」を見てるんだと思うんですね。あるニュースとか情報の背後に、どういうコンテクストが走っているのかを読むというか。で、それに対してどういう論点や切り口を投げ込めば、違ったおもしろさが出せるのかを常に考えているわけなんですけど、企業のなかからは社会というものが見えづらくなっている気はするので、そうやって社会の空気を見渡している編集者が、外から「いまの社会はこんな感じ」と提示できると、少しは編集者の価値を出せるかもしれないのかな、と。

「30歳以下だけ」にした理由

H:trialog、7回開催してきましたが、それを通してわかってきたことってなんでしょう。小堀さん、若林さんそれぞれ。

若:trialogのおもしろいところは、これ自体が僕ら自身の学びのプロセスになっているところなんじゃないかと思うんです。広告マーケティング的なフレームから外れて、可視化されていない新しい時代の感覚を、僕らがどう理解していくのか、どう言語化していくのか、そういうプロセスになっているように思います。

小:これからの未来をつくっていく人が、どんな人たちなのか。それを実験的に集めていくのは、広告を、ターゲットセグメントを設定して伝えるとはだいぶ違うんですよ。それではとらえられない人たちがたくさんいる。じゃあどうするかというと、「“新たな価値”という旗印をあげたときに集まってくる人」が本質なんじゃないかと。このあげ方を毎回変えて、「こういう価値に共感する人たちに、僕らの味方になって欲しい」というのを試行錯誤している感じですね。

H:U30の世代って社会問題を身体的に捉えられる世代なのかなと思っていて。テクノロジーを使ってそこにアプローチできる。

小:身体性というのは本当にそうで、実際に社会問題に直面しているというか、自分たちの問題なんだと深刻に考えてますよね。最後の質問のときに「こういうふうに問題を捉えているのか」と手応えがある。参加者の質問のあとの膨らませ方やラップアップが、すごくインタラクティブに展開しておもしろいんですよ。

若:そうですね。だからそこにもう少し、そういった子らにコミットした方が、僕らも楽しいんじゃないかなと。だから、自分らおっさんおばはんはいったん置いといて(笑)、今年からは参加者は30歳以下という縛りをいれたんです。それはそれで感じ悪いなっていうのもわかってるんですけど。

H:僕は32歳なのでだめでした。

若:配信を見てください(笑)。

「アーティストを特権化しない」イベント設計

H:trialogを進めていく中での編集者の役割や重要性って、ありました?

小:僕から見て、やっぱり編集者の「ひとを見る目」ですね。打ち合わせた方向性を台本化するわけではないし、3人の掛け合わせとU30のオーディエンスも加わったなかでゴールも変わる。
そのなかで、誰かの独りよがりのステージにならないように文脈を整える、編集テクニックとしての人を見る目がすごいなと。trialog で「どんな人と共犯関係になるか」を探っているわけですから。未来や文化をつくるうえで、ひとは重要なので。それがキャスティングを若林さんに一任してる理由でもあります。

H:出演者の色もかなり多岐に広げていますよね。テーマも広いですが、毎回の設計は、テーマありきですか? 人ありき?

小:いまは完全にテーマありきです。最初の頃はこういう人がおもしろいんじゃないかという流れがあったけど、途中からテーマ重視になって。最初に若林さんからテーマ案が出て、ここは時間をかけて固めます。社会で話題になっていることなどからテーマを決めて掘り下げていってます。

H:1つのテーマからどう設計していくんですか?

若:たとえば、中村佳穂さんをお呼びして、彼女の話を聞くだけの建てつけだと、彼女だけの話になっちゃうじゃないですか。そうではなくて、その時のテーマである「チームビルディング」を起点に、中村佳穂さんというベクトルをあたえると、違った人たちに届く話になるじゃないですか。人とテーマの関係が大事で、お客さんにはそこを「おもしろそうだな」と思ってほしいんです。

小:あるクリエイティブコミュニティのなかでフロントランナー的な人を呼んでも、そのコミュニティの人しか集まってこないね、と。ある程度、想像できるセグメントやクライテリアの人しか来ないんですよ。

若:テーマがないところで人をキャスティングしちゃうと、その人のファンしか来ないでしょ。それだとゲストを知らない人はアクセスのしようがないですから。

小:だからこそ、登壇中に「ああ、こういう話になるんだ!」って発見が毎回あっておもしろい。

若:毎回、本当に出たとこ勝負ですし(笑)。テーマが決まっているから、自然とそこに向かって話しているのはありますけど。

小:ある特定の領域の生き方だけでなく、新しいところを切り開いている方をゲストに呼んで、彼らが「本質的に何を考えて、価値を作り出しているのか」という問いを、共通のテーマにしているんですけど、若林さんはそこの引き出し方がすごくうまいです。あの手この手で引き出していく。そして最後に「〇〇でしたね」と結論を導いていく。

若:特別な人に特別な話をしてもらって、みんなで「すげえ」で終わるイベントの建てつけにはしたくないんです。アーティストやクリエイターを特権化したくないと言うか。「これはみんなの問題なんですよ」っていう、そういう視点でやりたいんですよね。長い目でみると、アーティストが個別特殊な領域である課題を乗り越えていったって事例が、社会のデフォルトになっていくんだと思うんです。とすると、彼ら・彼女らの話は、やっぱり「未来」なんですよ。

2019年の「未来的(Futuristic)」

H:trialogのテーマは「ほんとうに欲しい未来はなにか?」ですが、いまは「テクノロジーが世界を豊かにする」という、万博の時代やインターネット黎明期を象徴するような考えが、幻想に近くなっていると感じています。そういう転換期にあって、2人が思う、現在の「未来的」ってどういうものでしょう。

小:さっきチラっと話しましたけど、「人が想像するもので、いまはないもの」のような気がします。僕らは意識できる世界でしか生きていないので、人間が想像したもの以外は生まれていないと思っていて。これまでも、人間が想像したものがさまざまなかたちになり、手にしたり体験できたりしますけど、trialogで出会った人や価値観に触れて「いまここにないけれど、人が想像したものが未来になっていくのかもな」と思いましたね。

若:北欧のある会社に行ったら、トイレの男女の区別がなかったんですよ。未来のトイレってもしかしたら男女の区別がなかったりするのかもしれなくて、それって未来っぽいなと思うんですよ。未来からいまを振り返ったときに「なんで男女でわかれてたんだっけ?」ってなるかもしれないじゃないですか。そういうの、自分にとっては未来っぽいんですよ。見たことのない景色だから。

H:trialogは今後どのように展開していくんですか?

小:あまり先のことは考えすぎないようにしてるんですけど(笑)、次は総集編的なサミットをやろうかと思ってます。

若:最初のミッションがコミュニティをつくるという点だったけど、そこまではまだいけてないなと思ってます。だから、今年はいまのやり方で進めつつ…。

小:うん、かたちは変わるかもしれないですね。

若:かたちが変わってでも、カルチャーをつくるためにお客さんも巻き込んでいくスタンスは変わらないのかなと思ってます。

trialogとして初の1DAYイベント「trialog summit」を2019年9月15日(日)、渋谷ヒカリエ9F ヒカリエホールBにて開催します。

trialog summitは、「多様な未来を考える12日間」として、9月11日(水)〜22日(日)にかけて渋谷〜原宿〜表参道エリアを中心に、多拠点でカンファレンスや体験プログラムを行う都市回遊型イベント「SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA 2019」のオフィシャルプログラムとして実施され、SIW全体のテーマである「NEW RULES.~新しい価値観~」 に対し、今回のtrialog summitでは、「Alt.Rules オルタナティブなルール/ルールのオルタナティブ」(Alt.=Alternative:「これまでとは違う」、「代わりの」の意)をテーマに設定。このテーマにおいて、“ほんとうに欲しい社会、生き方”を探るために、「情報」「見た目」「会社」「アイデンティティ」というキーワードを軸とした、4つのトークセッション(三者対話)を通して考える1DAYイベントを行います。

なお、trialog 公式Twitterアカウントでは、当日の模様をライブ配信します。ライブ配信については下記アカウントを、その他詳細については、trialog公式WEBサイト、またはPeatixチケットサイトよりご覧ください。

■ trialog 公式Twitterアカウント : @trialog_project
■ trialog 公式WEBサイト : https://trialog-project.com/
■ チケットサイト : https://trialog-summit-0915.peatix.com

Interview with Kei Wakabayashi and Hirotaka Kobori

若林 恵|KEI WAKABAYASHI
blkswnコンテンツ・ディレクター
1971年生まれ。編集者。ロンドン、ニューヨークで幼少期を過ごす。早稲田大学第一文学部フランス文学科卒業後、平凡社入社、『月刊太陽』編集部所属。2000年にフリー編集者として独立。以後、雑誌、書籍、展覧会の図録などの編集を多数手がける。音楽ジャーナリストとしても活動。2012年に『WIRED』日本版編集長就任、2017年退任。2018年、黒鳥社(blkswn publishers)設立。

小堀 弘貴 HIROTAKA KOBORI
ソニー株式会社ブランド戦略部所属。若林氏とともに「trialog」の立ち上げに携わり、現在に至る。

Image graphic by Midori Hongo
Photos by Seitaro Yamada
Text by Takuya Wada
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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