世界に“日本製造業の技術と独創性”を広める。29歳の挑戦

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「新しいビジネスモデルが実現しそうで」。そう目を輝かすのは、白石殊久(よしひさ)、29歳。日本の中小製造企業と海外の買手のマッチング・販売サポートを行うべく、今年9月に「PROCEAN.Co」を立ち上げた。 なぜ、白石がそのビジネスモデルで起業し、どうやって世界の市場に切り込んでいくのか。白石のグローバルな挑戦の第一歩を取材した。

世界屈指の名門大学コロンビアのMBA(経営学修士)に通う白石。大学の正門で待ち合わせた彼の顔は晴れやかだった。理由を聞くと、取材の前に行っていた営業で「よい収穫」を得られたのだという。白石が現在考えるビジネスモデルは、ユニークな製品と高い技術力を持つ日本の中小企業と海外の買い手をマッチングし、条件交渉から輸出入手続きまでを一貫してサポートするというもの。

日本の中小企業には海外に物を売り込むノウハウが欠けており、逆に海外の買い手には日本の中小企業がどういった製品や技術を有しているかがあまり知られていない。この両者を繋ぐサービスには潜在的なニーズがあるのではないかという仮説が、彼の起業の背景にあるという。この仮説検証の第一歩として、「今、父親の会社が製造販売しているパチンコ台用の傾斜測定器を、新しい用途で活用できる市場がないかと模索中で」と話す。

「これが昨日、父から届いたばかりの傾斜測定器です」と、カバンから取り出した黒いプラスチックケースは、小学生のとき使っていたピアニカケースを思わせる。その中から取り出した長さ4、50センチメートルほどの細長い筒のような器具は、パチンコ台を設置するために作られたという精巧な器具だ。日常生活ではまず目にすることのないその器具は、白石によると、「パチンコ業界に存在する傾斜測定器の中で、最高の精度を誇る」のだそうだ。白石は「日本製であること」を強調する。「実際、そのプレミアはまだ大きいと感じます。“日本製”といった途端、相手の目の色も変わりますから」マーケットを見極めるために必要な「スピード感」

もう一点、白石が注目するのは、米国内での“別の”用途だ。営業先では、常に「器具の使い方について、面白い意見をもらえます」とのこと。「日本では限られていた器具品の用途が、ニューヨークならではのニーズに応えられるか、そしてマーケットが広がるか」。これこそが米国ならではのマーケット開拓であり、白石にとっての命題でもある。その意見が「広がりの種」になるのか早く見極めたい。だからこそ人に会う。会って意見を聞く。見込みがあるかどうか一刻も早く知るために動く。彼は「スピード」の大切さを知っている。

そう、今、最も重要なのは「スピード感だ」と白石はいう。「まだスタートして1ヶ月。今やっているのは、僕が立てた仮説が、機能するかをテストしている段階です」。つまり、この傾斜測定器は一つの実験であり、このビジネスモデルの実現する可能性を見つけ次第、より多くの中小製造企業を対象にビジネスを拡大したいと考えている。「先ずは小さくても良いから実績を作りたい」という白石。日本のどういった製品に、海外のどういった買い手が興味を示すか、そのマッチング率を高めるべく、道なき道を開拓しようと奮闘している。

父の背中を見て起業家を志す  

白石は1985年生まれ、埼玉県川口市育ち。中小製造企業の経営者である父の影響もあり、子どもの頃から「将来は自分も経営者になりたい」という思いはあった。特に父親が「自分の会社で開発した製品で、今までにない新しい価値を世の中に生みだすというのは、本当にやりがいのある仕事」と語っていたのが白石の心に響いたという。  高校から早稲田に進学。大学では理工学部で経営システム工学を専攻した。「大学入学時から準備をしていた」という海外留学を実現したのは、大学3年の夏。米国オレゴン州で1年間の交換留学を通して、英語力を身に付けるとともに、若いときに外側から他国と比較しながら日本を見る機会を得た経験は大きかったという。

帰国後、すぐにベンチャーインキュベーション企業(スタートアップ企業などへ投資やサポートを行う)でインターンを開始。1年半の経験を積んだ後、みずほ証券株式会社に就職した。金融大手を選んだ理由は、「起業する上でお金まわりの知識を深める必要性を感じ、より海外で経験を積むチャンスが多かったから」。

 東京のM&A部門で1年間働いたのち、業績と英語力、そしてコミュニケーション力の素質を買われ、業界では異例の2年目で海外赴任に抜擢された。行き先は香港。「本当はロンドンを希望していたのですが、成長の著しいアジアで働く機会にも興味があったので、その場で返事をしました」

09年より香港支社でクロスボーダーM&A(主に日系企業の海外M&Aをサポートするアドバイザリー業務)事業に4年間従事した。それと同時に11年頃からMBAの受験準備を開始。13年、コロンビア大学のビジネススクールに合格したタイミングで退社を決めた。

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グローバルな優等生は、プレゼン上手  

やりがいのある仕事を辞める決断は難しかったのではないかと聞くと、「前社でやりたかったことは、全部やらせていただいたので」ときっぱり。また、留学については「今のMBAは平均年齢26~28歳。自分もそのレンジに入っていたし今のタイミングが良いかなと」と冷静だ。  だが、ビジネススクール入学直後の話になると一転。なかなかクラスに馴染めずフラストレーションを感じていたと明かす。「まわりがスゴくて、自分のパフォーマンスに自信が持てなかった。皆、自分の頭で考えて論理的に組み立てることや、それをいかに効果的に伝えるかというスキルに長けている。特に即興でロジカルかつ、ジョークを上手く交えてプレゼンする技量には圧倒されっぱなしだった」 たった2年間のビジネススクール。やればやるほど新たな課題にぶつかる。「新しい仮説をたてて実行しては、検証して直す、その繰り返し。当初思い描いていたスピードよりかなり遅く進行している点が否めない」。“これ”というビジネスモデルが見つからなかった昨日までの約1年半を、そう振り返る。 友人からの叱責「もう若くはない」

白石にとって大きなターニングポイントとなったのが、この夏休みに日本に帰国し、親しい友人と再会できたことだった。「学校ではこんな刺激を受けていて、卒業後はどこでビジネスをやろうかな…」などと漠然とした話をする白石に、日本で既にベンチャーキャピタリストとして起業している同い年の友人は、こう一喝した。

「学ぶことはもちろん大切だが、俺らはもう30歳目前だ。起業家としてそんなに若くはない。お前がそうやって迷っている間に、俺もまわりも一歩ずつ前進していることを忘れるなよ」 同世代で起業に成功している友人は彼だけではない。MBAラーニングチームの中でも在学中に既に起業して活躍している者もいる。「彼らの活躍が刺激になる一方で、プレッシャーも大きい」。砂が指の間からこぼれ落ちるように、残りの時間が減っていく感覚に「眠れないこともある」と心の内を明かす。

だが、何故「“若くして”起業すること」にこだわるのだろうか。白石は、どんなにタフな環境に臆さず、常に挑戦をし続けられる人でも、「やはり年齢を重ねるにつれ、心理的にも背負うものは大きくなると思います。だから僕は、ハイリスクな挑戦はなるべく若いうちにしたいんです」という。友人から活を入れられた白石はもう一度、真剣にビジネスモデルを考え直すことになった。 ビジネスモデルをグローバルに展開するスピードとオペレーション力  14年の夏、白石は4ヶ月の夏休みを利用して、東京と香港、2都市の投資会社でインターンを経験した。白石が夏期インターンを通して学びたかったことは、「PEファンド*がどのようにして投資先(中小企業)の企業価値を上げるのか」だった。何かをするとき、目的が明確であることは白石の強みだ。

投資会社が顧客へ提供する重要な付加価値の一つは「海外事業のサポートだった」。彼らが投資をしていた売上100~200億円クラスの中堅企業ですら、海外事業を切り盛りできる人材が少ないことを指摘する。そこに大きなニーズと可能性を確信した白石は、ニューヨークへ帰国する前、「日本国内の中小企業100社程にコンタクトをとりヒアリングを行ってきた」という。そこでも日本企業の海外販売サポートのニーズを実感し、「方向性としては間違っていない」と再確認。そして、すぐさま起動させはじめたビジネスプランが、冒頭で述べた日本の中小製造企業と、海外の買い手のマッチングを行う海外販売サポートだ。  85年生まれの白石の世代は、IT界では「ソーシャル世代」ともいわれ、「アイデアを口に出した瞬間パッと世界中に広まってしまう」という現実を肌で感じてきた世代だ。アイデアビジネスで起業する人たちを見てきたと同時に、アイデアをカタチに変えるだけでは、すぐにコピーされてしまう危うさも見てきた。だからこそ、そのビジネスモデルを、一気にグローバルに展開できるスピードとオペレーション力が重要だ。

日本の製造業が海外でどれだけ高く評価されているかは、国外にでればでるほど、見えてくるもの。海外を視野にビジネスを考える感度の高い若者ほど、日本のクラフト(ものづくり)に注目している。既存の精巧な日本製品への需要を新たに海外に作りだす。白石は今、その需要創造マーケティングで活路を開こうとしている。

卒業は来年15年の5月。「やるからには、世界に認知される会社を作りたい」。そう闊達に語る29歳は、世界を見据えて日夜奮闘中だ。勤勉で学歴が高く、世界を飛び回る今の実力経営者たちは、世界規模の厳しい経済競争の勝者に自分こそふさわしいと考えているに違いない。自分を信じているからこそ邁進できるのだ。若き起業家、白石の「信じる力」に期待したい。

procean.co

Photorapher: Kuo-Heng Huang
Writer: Chiyo Yamauchi

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