革命的サービスを生み続ける男のSXSWで「世界に名を轟かせる方法」
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「大志、秋葉原でメイド姿の女の子がシャンプーしてくれる店のオーナー社長になるらしいよ」

ちょうどいまから10年前、浅枝と筆者は大学在学中で、ストリートダンスサークルの同期生だった。ほとんどの学生がぎこちないスーツに身を包み、就職活動をしていた頃、浅枝はTシャツ姿で秋葉原へ通っていた。卒業を間近にしてなお「社会へでるより、このままずっと学生でいたい」などと、ボンヤリしたことを抜かしていた筆者は、浅枝がやろうとしていたこと、つまり「起業」の意味も価値も全く理解できなかった。「へぇ。大志、メイドの女の子が趣味だったんだ。やっぱ変わってるわ」と。

そのメイド美容院「moesham(モエシャン)」の起業の翌年2006年には、仮想空間を専業とした株式会社メルティングドッツを創業。そして、11年12月、ソーシャル音楽サービス「Beatrobo」をリリースし米国にBeatrobo,Incを設立、CEOに就任している。同社の主力商品、スマートデバイス等で楽曲を再生できるサービス「PlugAir(プラグエア)」は、2013年11月の発売以来、リンキンパークや浜崎あゆみ、TMNETWORK、倖田來未など人気アーティストのツアーグッズとして販売され、即完売するほどの反響を得てきた。特筆すべきは海外、特に米国での知名度の高さ。バイリンガルの浅枝は、日本でのリリース前から、米国でプロモーションを行ってきた。若き頃より起業人生を歩んできた浅枝だが、「Beatrobo」での飛躍のきっかけには、12年のSXSW参加があるという。「音楽×IT」の新境地を切り開いてきた彼に、SXSWの魅力と参加する意義について聞いた。

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SXSW、「参加すれば何かが起こるかも…」なアメリカン・ドリームの時代は終った

HEAPS(以下、H):SXSWに、「IT、テクノロジーのイベント」というイメージが定着していったのは、2007年にTwitterが賞をとった以降という印象です。それまでは、一般的に音楽や映画の「インディーフェス」というイメージの方が強かったかと。集っていた人も、「アンチ大衆文化、ポップミュージック」という思想を持った人たちが多かったと聞きます。浅枝さんは、12年に初出展され、そして14年には出展はせずに参加されたそうですね。実際、どんな人たちが集っていましたか?

浅枝(以下、浅):インタラクティブの部門に関していえば、まず、出展する、しないにかかわらず、最新テクノロジーに興味がある「先進的なギークな人」です。そういった人たちが、西のサンフランシスコから東のニューヨークまで、全米中だけでなく、世界中から集まるイベントなんですね。つまり、言い方をかえれば現地では、ほぼ全員が土地勘のない「アウェイ」状態といえます。

「アウェイである」ということは、皆、話しかけられたいし、新しい友達を作りたい。「まわりと絡みたい」欲求が渦巻いているんですね。TwitterやFoursquareは、このSXSWの特質をうまく利用して大ブレークのきっかけを掴みました。「アウェイ」な他人同士が、出会って気軽にフォローし合って、「いま、○○のバーにいる」「○○のショーが面白すぎる」とつぶやくことで、僕も私も「そこに行ってみよう!」とつながれる。いかに便利ツールであるかを「リアルくちこみ」で証明し、その名を世に轟かすことへと繋がったんですよ。

H:なるほど。かつては「インディーフェス」だったSXSWも、いまでは、有名企業のCEOやセレブ、世界的に知名度があるミュージシャンも参加するほどのビッグフェスになりましたよね。

浅:そうですね。世界的フェスとして完成というか、いまはむしろスペース的にはオーバーキャパシティーだと思います。ホテル数も足りてないですし。市内のホテルは開催の4ヶ月前には予約困難。さらに、昨年は会場近くのダウンタウンのホテルは、前年の10月、つまり約半年前の時点で満室だったそうですよ。

それだけ人が集まると、有名人のトークショーなんかは、先着、もしくは、100人以上の人が長蛇の列を作っていて、昔みたいに、誰でも立ち見できる状況ではなくなっています。

そして、出展企業数も年々増えているので、せっかく渾身の作品や新製品を持っていっても、ただブースを構えてまっているだけでは、埋もれてしまいます、無名のインディーグループやスタートアップ企業は特に。とにかくSXSWに出展すれば、何かが起こるかもしれない、というアメリカンドリーム的な時代は終わりです。

H:それでは、SXSWに参加するには「ある程度、知名度をあげてから」が得策ということになりますでしょうか?

浅:そのパターンが理想的ですね。期間中は「目立ったもの勝ち」的なところも大きくなっていますから。ゲリラライブをやる人もいますし、体験型にして、体験した人には何かをプレゼントするといったインセンティブを付けたり、また、他企業とコラボして巧妙な仕掛けを作ったり。来場者に足を止めてもらうための戦略は欠かせません。

H:SXSWとはインディーズの文化であり、誰にでもフラットにチャンスがある、といわれていますが、そんな時代は終わりなんですね。

浅:確かに、「誰にでもチャンスがある」とは言い難いですが、SXSWにはインディーズの文化が根付いているのは事実です。参加している人たちは、どれだけ有名であるかとか、どれだけ売れてきたかではジャッジしません。その場で面白い音楽、映像、技術を表現しているところに人は集まるし、無名でも「良いものは良い」という価値観を持っている人がほとんどだと思いますよ。

H:なるほど。そういう意味では、いまなおインディーズ文化ゆずりなDIY精神が残っていてフラットなチャンスが根付いているといえそうですね!

日本のスタートアップ企業も続々参加!

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H:日本でも、13年頃からSXSWへの注目度があがっているように感じます。浅枝さんは、バイリンガルで、米国に本社、日本に支社を持っていらっしゃるんですよね。「英語力」という壁さえ乗り越えられれば、日本のコンテンツはSXSWで、しいては世界で勝負できると思われますか?

浅:はい。日本のプロダクトやサービスも、個人的には素晴らしいと思います。面白いアイデアを持っている優秀な方も多いですし。ただ、自分の商品を「グローバルサービス化したい」と考えているのであれば、「英語力」、そして現地で通用する「コミュニケーション力」「交渉力」は欠かせません。海外のカンファレンスやイベントに出展する場合は、どんなにビジネスセンス、ITの知識、そして情熱があったとしても、それを一人でも多くの人に伝えられる「英語力」がなければ厳しいんじゃないか、というのが率直な感想です。

とはいえ、ただの来場者としてでも「まずは行ってみる」。これが重要だと思います。いかに面白いイベントであるか、狙いたいターゲットがいるかの確認については行ってみないと気づけませんからね。実際、「参加することに意義がある」、そんな意気込みで出展されている人も少なくないですよ。何もネイティブな英語を話さなければチャンス無しといっているわけではありません。相手に通じる英語が話せればいいんですから。

SXSWの「褒める文化」、日本の「ダメ出し文化」

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H:浅枝さんにとって、出展してみて得られた最大のメリットは?

浅:ポジティブな反応が得られることです。シリコンバレーにスタートアップ応援カルチャーがあるように、SXSWにもそれがあります。だから、僕みたいに一人で行って、現地の米国人からしたら「誰だこいつ?」みたいなのが「こんなサービスを作っているんです」と語っても、ちゃんと興味を持って聞いてくれます。もちろん、聞くだけではなくて、どこがどういいかを褒めてくれる。「そのアイデアいいね。その製品の○○の技術は、△△の分野でも応用できそうだよね」といった具合いに。新たに広がる「可能性」を提案してくれるんです。たとえば、自社製品「PlugAir」を見せたときも、「音楽以外のデータも持ち運びするビジネスは考えてないの?病院とか。それで、患者がカルテを管理できるようになったりとか」と、新しいビジネスアイデアにつながる案をもらえたりしました。

ただ、これが日本だと、仮に「面白いですね」と褒められても「でも、こうなってしまった場合はどうするんですか?」「こういう不具合も起こりうるんですかね?」と、不安要素を探し出す思考が強いんですよね。

H:良くも悪くも、慎重さゆえ日本は「ダメ出し社会」なんでしょうかね。と、その前に浅枝さんは、2012年に出展された際、一人で行かれたんですか?

浅:日本人の仲間大勢で行きましたよ。ただ英語ネイティブは私一人でした。滞在中は、朝7時に自分のブースへ行って、夜8時まで13時間立ちっぱなしで、話をし、プレゼンをし、終わったら片付ける。その後、バーへ午前2時まで飲みにいって、ホテルに帰ったら、その日にもらった名刺を全部管理して、また翌日朝7時にはブースにいるというのを5日間ぶっ続けでやったんですね。もっとライブや映画をみて遊びたいと思いつつも、体力的にはなかなか大変でした。満喫しましたけどね。

日本からはスタートアップより「大企業」が増えそうなワケ

H:その12年の出展以来、出展参加はされていませんが何か理由があるのでしょうか?

浅:理由は結局、費用対効果にあります。遠いアメリカの地で自社の製品を宣伝する意味がどれだけあるかという話です。アメリカからの参加であればまだいいですが、日本からだとサンフランシスコから飛行機でさらに約6時間ですからね。移動だけで、一日潰れます。出展にも、もちろんお金はかかります。インタラクティブの期間中にブースを借りると、大きさにもよりますが床だけでも約35万円〜です。この上にモニター、看板、ポスターなどの設営コストがかかり、それプラス、飛行機代、滞在中のホテル代、さらにスタッフなどの分まで考えると10日滞在するのであれば最低でも150万円以上はかかると思ってよいと思います。我々のサービスはユーザー需要の確認として2012年は意味がありましたが、それ以後はアメリカのギーク層を直接的なターゲットとしていなかったため、出展を見送ることにした感じです。

H:何人かでシフト制でブースに立つというのは、難しいのでしょうか?

浅:もちろんそれがベストです。だいたい期間中、3〜5人のチームで交代しながらブースに立つのが理想的だと思います。椅子を用意して、混んでいないときは休憩したりもできますし。ただ、スピーカーとしてブースに立つ以上、チームメンバー全員が英語が喋れないと意味がなく、そして、人数が増えた分、経費もかかります。やはりお金がかかるんです。そんな現状を考えると、今後日本から参加するのは、余裕のないスタートアップよりも、視察目的や宣伝目的で参加する、資金力のある大企業が増えていくのではないか、とも思います。

H:月面を走れるランニングマシーンを作成した博報堂アイ・スタジオの望月重太朗氏も、「SXSWで展示した後、逆輸入的に日本で展示したことが、メディア的にも取り上げられやすかった」と、インタビューで答えられていましたが、SXSWへ出展することは、海外進出だけでなく、国内での規模拡大にも一役買いそうですね。

浅:いまは、そんな感じかもしれませんね。日本のアイドルやアーティストの海外コンサートも、日本で話題にするのを目的にしたものが多いようですし。しかしSXSWに出展しているスタートアップにも大成功している事例はあったりします。たとえば、12年には、「Crowsnest(クロウズネスト)」というスマートニュースの前身となるニュースアプリが出展されていたのですが、このアプリはのちにニュースアプリ市場の覇者「スマートニュース」として生まれ変わった経緯があります。このようにSXSWに展示した製品自体がビックヒットになったわけではないけれども、出展して気づいたこと、グローバルに通じるものが何かというのを掴むきっかけはやはり存在すると思います。「まずは行ってみる」勇気を出せる人はこうしたチャンスを掴むことができるのではないでしょうか。

 

浅枝大志(あさえだ ひろし)

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1983年生まれ。東京都出身。幼少期をニューヨークで過ごし、中学生のとき、日本へ帰国。青山学院大学卒。デジタルハリウッド大学院修了。大学在学中の05年に「moesham(モエシャン)」こと秋葉原にメイド美容院を創業。06年には仮想空間を専業としたメルティングドッツを設立。11年12月、ソーシャル音楽サービス「Beatrobo」をリリースしCEOに就任。米国に本社、東京に支社を持つ。

Photographer: Wataru Kitao

Interview: Chiyo yamauchi

 

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