“黄色のニコちゃん”はなぜ普遍? ヒューマニスト〈スマイリー〉の年代と場所を問わないメッセージ、協力のライフスタイル

みんな大好き、スマイリー。「かわいい」以上に深いその価値と役割について、誕生から50年経ついま、もう一度。
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50年のあいだ、ずっと笑みを絶やさずいつ見ても笑顔。スマイリー、ニコちゃん、真っ黄色のニコニコマーク。その表情通り「ポジティブさ」を推進する黄色い丸顔の大使は、来年50歳を迎える。そしてまた次の50年、同じ役目を背負っていく。そのあり方を伸長しながら。

スマイリーフェイスの長い長い歴史

 シールや筆箱、Tシャツなどにいる「スマイリーフェイス」は、誰でも小さい頃から見慣れているだろう。時々、ピンクや国旗柄などの、変化球スマイリーもいたりする。いずれにせよ、てんてんの小さい目ににんまりの口で、いつ見ても安心させてくれる癒し顔の持ち主だ。

 スマイリーフェイス(以下、スマイリー)の起源には諸説ある。ここでいうスマイリーとは、おなじみの黄色のニコちゃんに限らず「偏在的なスマイルマーク」のこと。

 古代トルコの遺跡で発見された紀元前の陶器には、大きなスマイルマークが書かれていたとの報告があれば、1940年代にはノーベル文学賞を受賞した作家の手紙にスマイルマークのようなものが書かれていたともいう。1960年代になると、ニューヨークのラジオ局がロゴとしてスマイリーを使用。広告会社を経営していたハーベイ・ボールが社内キャンペーンとして「黄色のスマイリー」をデザインし、70年代初期にはグリーティングカード店を経営していた店主兄弟が、このスマイリーで缶バッジを作り、米国の大衆文化の一部となった。


 同じ頃、フランスではジャーナリストのフランクリン・ルフラーニが仏新聞に「グッドニュース欄」を設け、そのシンボルとしてスマイリーをデザインしたという説もある。そしてこのフランクリン・ルフラーニこそ初めてスマイリーを商標登録した人だ。以後50年のあいだ、「ザ・スマイリー・カンパニー(The Smiley Company)」として、さまざまなアーティストやブランドとコラボレーションを重ね、世の中にスマイリーを撒き散らしている。

 プロダクトだけではなく、60、70年代のラブ&ピースのヒッピームーブメントから、80年代のレイヴシーン、90年代からのデジタルコミュニケーションにわたって、年代ごとのみんなのシーン、ライフスタイルにもあり続けたスマイリーフェイス。

 50年前から、そして50年後も変わらない「ポジティブさ」という同じコンセプトで続けられるスマイリーについて、ロンドンを拠点とするザ・スマイリー・カンパニーの海外事業部長、マット・ウィントン氏に取材した。

みんなのDNAレベルにいるポジティブなスマイリー

「笑顔になる時間を作ろう(Take The Time To Smile)」「クリエイティビティを通して、世界にポジティブを届けよう」。ザ・スマイリー・カンパニーが掲げる標語・ミッションには、笑顔、ポジティブなど、黄色い笑顔のようなあかるく前向きな言葉が並ぶ。

「当時(70年代)、世の中ではベトナム戦争にウォーターゲート事件など、よくないことが起きていた。バッドニュースを聞くことに疲れていた人々にグッドニュースを届けようと、フランクリン・ルフラーニが『Take The Time To Smile』と謳い、キャンペーンをはじめました。スマイリーを通して『すべてのことは、最終的にはうまくいくさ』というメッセージを人々に植えつけるためです」。現在もグッドニュースを届ける『スマイリー・ニュース』というニュースサイトを運営しているのは、その名残だ。

 来年50周年を迎える同社は、記念としてショートムービーを制作。タイトルは「An Animated History of Defiant Optimism(“反抗的な楽観主義”の歴史アニメーション)」。ポジティブさの象徴(楽観主義)でありながら、ヒッピー、レイヴなどカウンターカルチャー(反抗的)の象徴にもなったスマイリーの社会的役割を表現している。

「子どもの頃、初めてお絵かきで習うのがスマイリーの顔ですよね。人の顔を描くときにもスマイリーになることが多い。人間の感情を表現するのに一番簡単な方法が、スマイルです。人間には生まれてきたときからスマイリーが自然と身に染み付いている、とさえ思ってしまいます」。

 スマイリーの「黄色」にもポジティブな意味が隠されていた。「黄色は、太陽の輝きを意味しています。太陽は、暖かい天気、肌で感じる暖かみ、ビタミンD・Eなど、ポジティブで気持ちも高ぶる存在ですから」



いつの時代も、みんなの生活シーンに必ずいる顔

 スマイリーは単純な顔をしている。それゆえ、時代・場所に限らず普遍的な顔としてさまざまな表現やデザインに使用されるのだ。「その歴史は、石器時代の彫刻(遺跡で発見された陶器への印)から、現代のポピュラーカルチャーにまでわたります」

 70年代には、ヒッピー文化とともにラブ&ピースの象徴になったほか、バッジやワッペン、当時流行ったフリスビーなどのグッズとしても人気だった。特に米国では、60年代からバッジを交換しあうブームが起こり、カウンターカルチャーとして大流行。71年までにスマイリー・フェイス・バッジは大人気となり、約5,000万個のバッジが売れたという(米人口の4人に1人が持っていた計算)。

 同時期、スマイリーは日本にも上陸し、特にペン、シール、ペンケースといった文具として愛される。

 80年代になると、スマイリーは、カウンターカルチャーの象徴になる。スーパーヒーローをダークに描いたコミックブック『ザ・ウォッチメン』にも、血痕つきの物騒なスマイリーが使用されたり、またレイヴ、クラブカルチャーの興隆とともに、ストリートファッションやクラブファッションにも取り入れられるようになる。90年代には、バンド・ニルヴァーナが「X」の目をしたスマイリーをバンドのアイコンとして起用した。

 デジタルの世界にもスマイリーが出現するようになったのがこの頃だ。1996年には、仏アルカテル社の携帯電話に「スマイリー」の点と線の顔文字が登録され、翌年には、グラフィックの顔文字(エモティコン)が著作権を得た。デジタルコミュニケーションツールとして、みんなの日々の感情を伝えるシンボルになったのだ。

デジタルになってから、スマイリーは、“世界共通語”として確立されました。僕の母も息子も、スマイリーの絵文字を使いますからね」


 時代やエリアに問わず、スマイリーがみんなのライフスタイルに溶け込んできた理由として、ウィントン氏はこう話す。

「これまで、ストリートブランドからハイブランドまで、質の高いブランドたちとコラボレーションを重ねてきたからです。ザ・スマイリー・カンパニーはライセンス会社なので、ビジネスモデルはブランドとのコラボレーションです。ここ10年の大衆文化でコラボレーションは大事な要素になりましたしね」

 フェンディなどのハイファッションブランドから、リーなどの老舗アパレルブランド、プーマなどのスポーツブランド、モスキーノなどのデザイナーズブランド、チャイナタウン・マーケットなどの新鋭ストリートブランドまで、どんなスタイルでもうまく溶け込むのがスマイリーの特技だ(そして往年のボクシングスター、マイク・タイソンにもスマイリーグローブでコラボする柔軟さ)。

スマイリーは、その“ハッピー”、“ポジティブ”といったコンセプトは同じですが、そのメッセージをどう伝えるかはさまざまです。各々のクリエイターたちが、彼らのスタイルを織り込むことができる。そのためスマイリーのコラボレーションは、いつも新鮮でユニークに保つことができます」。表情は変わらずとも、その表現は無限ということだ。




次なるスマイリーの役目は、EQ教育?

 来年迎える50周年にあたり、さまざまなキャンペーンを企画・計画している。世界のアーティストが手がけたスマイリーのオブジェを世界各地の有名地に設置し、2022年の世界絵文字デーにお披露目するプロジェクトや、世界の50のアーティストやブランドとコラボレーションを手がけるキャンペーンなど盛りだくさんだが、新しいアプローチは「教育」だろう。

「ハピヤー・スクールズ・プログラム」と名付けられたプロジェクトでは、教育機関での「EQ教育」に、スマイリーを導入する計画だ。EQとは、「エモーショナル・インテリジェンス、心の知能指数」の略で、自己や他者の感情を知覚する知能、そして自分の感情をコントロールする知能のことを指す。

「政府を通して、このような社会的学習・感情学習を導入すると試みると、5年、10年はかかってしまう。もっと迅速に進めるため、子どもの感情にまつわる教育ツールとしてスマイリーを使おうと思います」。さまざまな表情をしたスマイリーのエモティコンを使用して(もはや“笑顔”ではないが)、悲しみや嫉妬、困惑、照れなどの感情を学んだり、自分がいま持っている感情をスマイリーのオブジェを使って表現したりするという。


「実際、人生のなかではIQよりEQの方が大事ですよね。IQが高くても、EQがなければ人間関係や友情関係なども含め、人生で成功するためのライフスキルがないことと同じ。EQが低いために、人はさまざまな失敗をしますから。スマイリーの未来は、子どもたちのEQ向上に努めます

「スマイリーは、ライフスタイルという知的財産」

 これまでの50年、そしてこれからの50年。スマイリーに変わらず存在しているのが「ポジティブさ」「ハッピー」という、人間が本能的に追い求める普遍的なメッセージとコンセプトだ。「とてもシンプルで明解なメッセージをブランドとして持てることはとても大事なことだと思います。そしてスマイリーは、ヒューマニスト(人間中心)のブランドであるということも大きなことです」。

 長いあいだ、スマイリーが存在し続けられる理由として、ウィントン氏は、スマイリーを「ライフスタイルの知的財産」と表現する。

「ハリウッドのスタジオが生み出すようなキャラクターやテレビ番組でもない。エンターテインメント資産でもなくブランド化した工業製品でもない。私たちはクリエイティビティとポジティビティを共有するコラボレーション相手たちとともに『ライフスタイル』を売っています」


 物質的な価値ではなく、考えや精神性といった“消えない”財産。プロダクトのみならず、社会的なメッセージやカルチャーシーン、アート、そして教育というさまざまな分野で十人十色の笑みを浮かべることができる。

「ある大学教授がこう言っていました。『スマイルは、世界でもっとも古い“協力”や“協業”のツールだ』。スマイルは信頼を築き上げますし、スマイルは人々を癒す。あくびをすればあくびが伝染するように、誰かに微笑みかければ、微笑み返してくれる」。シンプルな黄色いスマイリーフェイスからは、何十年も何百年も何千年も変わらない人間のシンプルなパワーが、太陽光のように燦々と放出されている。

Interview with Matt Winton of The Smiley Company

All images via The Smiley Company
Text by Risa Akita
Content Direction & Edit: HEAPS Magazine

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