育ててもらった恩はゲリラで返す。10代「ゲリラマーケティング」でエリア活性化
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若者だけで結成されたマーケティング協同組合「Kaluk」とは?

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Photo by Jason Speakman

「ゲリラマーケティング」。ちょっと危なっかしい響きの手法で地元を活性化する若者の集団がいる。18歳から25歳までのメンバーで構成されたマーケティング協同組合Kaluk(カルーク)、活動するのは荒れた空き地に古びた工場が立ち並ぶブルックリンの「レッドフック地区」。この地区に住む人の“約三分の一が貧困層”という荒廃エリアだ。その土地で育った若者たちが、ストリートでの商品サンプルやフライヤー配りなど、“顔の見えるマーケティング”で、地元ビジネスとコミュニティを変えようとしている。

“高校生のフライヤー配り”がビジネスに

「貧困層が圧倒的多数な地元を活性化させる」と、カルークを創設したメンバーのLuis Fernandez(ルイス・フェルナンデス)とAida Pedroza(アイーダ・ペドロサ)。出会ったのは「ドロップアウトした生徒の転校先」としても知られるサウス・ブルックリン・コミュニティ高校だった。貧困層のドロップアウト率は、普通の家庭のそれと比べて約5倍と高い。そんな高校を卒業した二人は、20歳と21歳とまだ若い。

 カルーク誕生は、これまた学校がきっかけだった。プログラムの一環で、生徒にインターンシップの機会を提供するものがあり、ルイスたちに地元の企業から一つの依頼が舞い込む。子どもたちの教育、学校や地域社会との関わりを助ける団体「Good Shepherd Services」が地元の経営者からフライヤーを配りたいという話を受け、それを彼らに任せたい、と。初めての仕事となった。
 その後も、フライヤー配りなどの活動を地道に続けた彼らに、転機が訪れたのは高校を卒業したとき。ルイスは当時をこう振り返る。
「Good Shepherd Servicesから『これまで良い評判をもらっているし、これからビジネスとしてやっていかないか』という話をされたんだよ。もちろん『やりましょう』と、2014年6月から本格的にカルークとしてスタートしたんだ」。高校に通いながら十分な経験と評価を積み上げていった彼らに迷いはなかった。

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Photo by Reg Flowers

“友だちの輪”が最大の武器

 カルークの11人のメンバーのほとんどがレッドフック出身で中学・高校時代の友人同士。彼らはレッドフックの若い世代と協力し、地元コミュニティの活性と発展を目指す。地元の小さな企業やNPO団体などをクライアントに持ち、その活動はイベントを盛り上げる手伝いや、フライヤーを配ったりなど、彼らの「ゲリラマーケティング」は決して斬新なものではない。しかし、メンバーがレッドフックで育ったという強みが最大の武器となり最大の効果を生む。「地元を変えたい」という思いが伝わりやすく、地元の企業からの信頼も大きくなるからだ。

 彼らの強みが最大限発揮された例が、今年の「市民参加型予算」というプロジェクト。自治体に割り当てられた予算の使い道を決める投票を住民たちに呼びかけるというもの。投票率は、過去最高だった。そのことについてルイスは、「メンバーに知り合いや友だちがたくさんいることが その理由の一つだと思うんだ」と分析する。
「だってタイムズスクエアで知らない人がフライヤーを配っていてもただ通り過ぎるだけじゃない?でも、もし友だちが何か配ってたら受け取るだろ?このプロジェクトでも友だちにばったり会ったときに『投票してよ!親にもいってよ!』って気軽に声をかけたら、参加してくれたんだ」。彼らにとっては、遊び仲間、出会った人たちとの繋がりこそが最大の武器となる。生まれ育った地元にだけフォーカスしたカルークの活動は、自然と地元の経営者の間でも噂になり、仕事のオファーは増え続けている。

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Photo by Reg Flowers

“ビミョーな地元”を捨てない

 これまで大変だったことは特にないと話すルイスとアイーダ。その秘訣は「協同組合」という運営方法にある。カルークは一般的な企業の“ピラミッド型”の階級組織を持たず、代わりにあるのは“輪”だという。メンバー全員がオーナーという運営形態で、リスクや報酬も平等にシェア。また、何かを決めるときなども民主的な方法をとり、メンバー誰もが思ったことを率直にいえる環境にある。
「たとえば、僕が『これはできない』『これは違う』と思ったらアイーダにいうし、彼女は僕の意見を尊重しなきゃいけないんだ。もちろんその逆もそうだよ」とルイス。互いを尊重し合うという方針がカルークの運営をスムーズにしている。

 これからの活動についてたずねると、ルイスは「秘密」と、若さを感じさせる茶目っ気たっぷりな笑顔。一方、アイーダは「まずカルークが続くことを願っているわ」とはにかむ。それから「いまはビジネスが順調なので、これからもメンバーは増えていくと思う。これからはレッドフックからはじまったこの活動がブルックリン全体にまで広がって、多くの人に“レッドフック、いいね”と思ってもらえたら」と、真剣な眼差しで展望を話す。いまでは彼らの噂を聞き、他の地区からもメンバーになりたいと応募者が集まることもあり、カルークの”輪”は大きくな りはじめている。

 地元を愛し、地元に愛される若者たちによる「ゲリラマーケティング」。ゲリラ、その響きとは裏腹に人情を感じるものだ。「このエリア、ビミョーだから」と地元を捨てなかった若者たちのカルークという選択と活動は、決して裕福とはいえない地区で育つ子どもたちの未来も変えることになるだろう。

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Photo by Reg Flowers

Kaluk / kaluk.coop


Issue 30『都市を変えるのは、ゲリラだ』より
Text by Akihiko Hirata, edited by HEAPS

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