自転車乗りは愛しき“ギャング”

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ニューヨークの自転車事情といったら、かなり後進的だ。“自転車人口”が増え始めたのもここ数年で、シェアバイクが話題になったのも、近年の話。しかし、この地にはずっと、“自転車乗り”がいた。ニューヨークはサンフランシスコとならび、「メッセンジャー」の発祥地。ケビン・ベーコン主演、ニューヨークのメッセンジャーを描いた『クイックシルバー』(1986年)は隠れた名作として日本でも人気だ。そんな当地で約10年間、メッセンジャーをしてきた日本人がいる。彼は、メッセンジャーをはじめとする“自転車乗りたち”をカメラにおさめてきた。当地を拠点に活動する写真家、坂本琢哉がドキュメントした自転車乗りたちのライドイベント「The Warriors Ride」。ブロンクスからコニーアイランドまでの約60kmを疾走した自転車乗りたちは、愛すべき“ギャング”だ。坂本が綴る、写真エッセイ。ようこそ、ニューヨークの自転車乗りたちの世界へ。

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今から10年以上前の話。その頃、ニューヨークで自転車に乗るということは、少々“非常識な行為”でした。1990年代に敷かれた自転車レーンは色褪せ、フォード社のタクシーが白い排気ガスをまき散らし、タウンタウンには盗難自転車を堂々と販売する店があったほど…。

自転車通勤をしている人なんてほんのひと握りで、真冬に自転車に乗るのは、一部の自転車に取り憑かれた環境活動家と、配達を生業としているメッセンジャーのみ。街ですれ違う自転車乗りのほとんどが、お互いに顔見知りでした。

そんな2002年の夏、メッセンジャーのKevin “Squid” Bolger(ケビン・“スクウィッド”・ボルガー)を中心としたメッセンジャーコミュニティが、自転車乗りの誰もが楽しめるイベントを提案。1979年のカルトムービー『The Warriors』をモチーフにしたグループライドで、ライダー達が「ギャング」と呼ばれる10人ほどのチームを結成し、日没から日の出までの間にブロンクスからコニーアイランドまで、約60kmの道のりを走破するというものでした。

ギャング達はお互いに“敵対”し、道中で待ち受けた様々なチェックポイント、レスリングやスカベンジャーハント(宝探し)などで競い合いました。Squidの提案した「The Warriors Ride」は、多くのライダー達の共感を得て、70組以上のギャング、総勢800人以上が参加し、伝説のイベントとして東海岸の自転車乗り達の心に深く刻まれました。

そして2014年の夏、Squidと若手のピストバイクコミュニティ「Track Or Die」が、そのグループライドを現代に蘇らせたのです。スカベンジャーハントのチェックポイントでは、インスタグラムを活用するなど、現代風のアレンジを加えて。今日ここにある10枚の写真と映像が、その記録の一部です。「もっと知りたい」と興味が湧いた人は、フェイスブックのコミュニティやインスタグラムのハッシュタグ「#warriorsnyc」で検索してみてください。

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Photos & Text by TAKUYA SAKAMOTO TAKUYA SAKAMOTO
1990年代のニューヨーク発クラブカルチャーに影響を受け、98年に渡米。以降、約10年間、当地にてバイクメッセンジャーを生業としつつ写真を撮り続ける。2005年から本格的にフォトグラファーとして活動をスタート。現在はニューヨークのバイシクルシーンをはじめ、ストリートカルチャーをメインにシーンに深く入り込んだ撮影を続けている。
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< 掲載 Issue 21 >

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