【Editor’s Pick】被写体を探すは必要ない。ただストリートに行けばいい Interview with Phil Knott

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時間と持続性が作り出すもの

 イギリス生まれで、大学ではアートを専攻。卒業してからカメラに出会い、写真スタジオに弟子入り。ポラロイド・カメラにはまった。2002年、ニューヨークに移住。周りのアーティストがみな、ニューヨークに向かっていたからだ。独特のソウルフルな撮影表現スタイルが注目され、パラマウント映画、ヴェルサーチ・スポーツ、スティーブ・マデン、ソニー・レコードなどとコラボレートしているうちに、デジタルカメラの波に襲われた。

「デジタルカメラに移行するのは辛かった。3年かかり、いかにフィルムで撮ったかのように見せられるかを学んだ。まるで学校に行って修業しているみたいだった。でもリタッチは絶対にしない」

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 誰もがデジタルカメラやスマートフォンで写真を撮る現在の状況は「ミーイズム(自己中心主義)」でしかないという。
「(運動家で作家の)スーザン・ソンタグが言ったように、日本人は、高度成長期を経て、海外を旅行するとき、カメラを持っていくようになった。『見て、海外にいますよ』『見て、写真を撮っていますよ』と言うためにね。今のインスタグラムもそれと同じ状況だ。インスタントに写真を加工して、誰に会ってる、何を食べてる、どこに来ている、me、me、me!」
「でも、時間がいいものを作り出すんだ。ワインやヘネシーみたいにね。コンピューターにはできない。時間と持続性が必要だ」
 確かに、彼が愛するのは、ストリートの偶然性、敏捷性だが、作品には恐ろしく時間がかかっている。しかも、誰の手も借りていない。しかし、完成したコラージュは、『ストリート』を永遠に閉じ込めている。

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©Phil Knott

“Looking” 目に見えるものすべてが被写体

 写真は「Looking(見ること)」だと言う。彼には見えている。自転車に乗った若い女性が振り返った瞬間、スケートボーダーが空に舞う瞬間、通りで吠える犬。それらに、ニュ ーヨークが圧縮されている。

「ニューヨークは、ロマンティックで、ペースが速くて、大きくて、多様性があって、そして、光がすばらしい。夏の光のす
ばらしさと言ったら!」
「そして、常に変化している。変化しているけど、どこにいても仕事ができる。チャイナタウンにいても、ウィリアムズバーグにいても、ウォール街にいても、英語が通じなくても、 どこでも動けるし、それでいて、よそ者だとは思わせない、そういうところがある。これがモスクワへ行ったら、大変だろ?」

 ニューヨークを語るとき、フィルは遠い目をする。きっと、まだまだ撮りたいものがあふれんばかりなのだろう。

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Phil Knott(フィル・ノット)

イギリス出身。2002年からブルックリンを拠点とする。多彩な写真表現で華やかでソウルフルな撮影表現スタイルを確立して いる。大手アパレル、スポーツブランドをクライアントに持ち、幅広い分野の写真を手がける。長期プロジェクト『State of the Moment in Conjunction』は、NYクリエイティブ・シーンの全貌を捉える。
philknott.com

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< Issue 13『目に映るものすべてが被写体』より。2014年4月発刊 >
Interview photos by Koki Sato
Text by Keiko Tsuyama

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