人間だけじゃ物足りない。56万の幽霊たちと遊ぶ

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    「ブルックリンに楽しいお墓があるんです」この話を聞いて驚いた。肝試しではないという。怖い?罰は当たらない?そんな反応が返ってきそうだ。しかし、ニューヨーカーにとって墓地は最高の遊び場だという。これが本当ならば墓地に新しい可能性が見いだされ世界は変化を遂げるだろう。楽しい墓地、本当にある?

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 夜も更け暗くなった頃。ブルックリンのとある場所にぞくぞくと人が集まっている。そこは180年近い歴史を持つ広大な墓地「Green-Wood Cemetery(グリーン・ウッド・セメタリー)」。現代アーティストのJean-Michel Basquiat(ジャン=ミシェル・バスキア)をはじめ各界の著名人たちが眠っているという。ここで夜な夜な楽しいことをしていると聞きつけたのだが、辺りは静まり返っている。暗闇に包まれた園内を歩き進むと、ライトに照らされた場所で不気味に動く人影が…まさか、やっぱり出ちゃった、幽霊?

 実はこれ、れっきとしたイベント。墓地を舞台に繰り広げられ、そのパフォーマンスを観て回るツアー「Crossing Over(クロッシング・オーバー)」だ。ダンスやパフォーマンスでブルックリンの活性化を図る団体「The BEAT Festival」が主催している。その斬新なアイデアと質の高い演出で盛況を博し昨年話題になった。観客は小人数のグループに分かれ、キャンドルを持ったツアーガイドに連れられて墓地内の路地を進む。すると、所々にライトに照らされた場所に行きつく。そこには、今一番、地元で旬といわれているパフォーマーの姿が。エンタメ業界で功績を残した先人の墓の前で、敬意を示すようにコンテンポラリーダンスを踊っている。“故人”にとってもきっと嬉しいだろうし、パフォーマーにとっても意義のある貴重な経験になるし、ユーモアセンスが光るアイデアだ。

「観客の中には幽霊も混ざっているかもね」。そう冗談を飛ばすのは冒険心旺盛なStephen Shelley(スティーブン・シェリー)。上記団体の代表でこの企画の中心人物だ。墓場を遊び場にするなんて罰が当たらないのかという問いに「墓地は死者だけでなく、生きている人間たちのための場所でもある」ときっぱり。かつて美術館や図書館でパフォーマンスをしてきたスティーブンは、新たなるパフォーマンススタイルを模索し、ブルックリンでユニークかつダイナミックな舞台を探していた。同じ頃、グリーン・ウッド・セメタリーが、パーティーや映画上映など、墓地を利用した斬新なイベントを以前から求めていることを知った。「歴史的に名高く美しいここはパフォーマンスに絶好の会場だった。観客も小さなイスで座って観るより、一緒に動きながら観れる方が楽しいでしょ?」

「新しい可能性を見いだすことでグリーン・ウッド・セメタリーにもっと興味を持ってもらえると、墓地側も『Crossing Over』の企画を快く承諾してくれた」と嬉しそうに話すスティーブン。いかにもブルックリンらしい寛大さだ。

「Crossing Over」は「境界をどんどん越えていく」という意味 。普段、人が寄り付かない場所に新たな命を吹き込んだ「Crossing Over」。神聖だがちょっと怖かった場所を“最高の遊び場”に変えた。墓地の新たな可能性に幽霊も喜び、地域を盛り上げる仲間になるかもしれない。

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