ゲストハウスが渦を生み出し「小さな街」になる〜「UZUハウス」発起人・沖野充和インタビュー〜
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首都圏から遠く離れた山口県の港町・下関市から、新しい「渦」を巻き起こすーー。日本中、そして世界中の人々が訪れ、地元の人々と交流するゲストハウス「UZUハウス(ウズハウス)」のプロジェクトが始動した。東京で建築家として働く沖野充和(おきの・みつかず)は下関市出身で、このプロジェクトの発起人だ。山口県出身者に限らず、山口県を愛する人々を次々と巻き込み、「渦」をどんどん大きくしている。

「変わっていく」下関市を「変えていく」

 自分の故郷はずっと変わらないままだと漠然と思っていたけれど、実はどんどん変化してしまっているーー。沖野が「UZUハウス」を始めようと思い立ったのは、東京から地元の下関市に帰省したときに感じた「寂しさ」がきっかけだった。馴染みだった店の多くは閉店し、他の店に変わっていたり、閉まっていたりした。東京に住んでいるからこそ、帰ったときには“その変化”に敏感だった。

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 故郷に対して、自分は何かできないか。「そう考えていたとき、たまたま仕事でシェアハウスやゲストハウスに携わっていたこともあり、リンクしたんですよね。下関市にもゲストハウスがあれば、海外や日本中から今より多くの人に来てもらえるし、下関市のいい所を知ってもらえる。下関市にある色々なお店や場所を訪れてもらえれば、経済的にも活性化される」。ゲストハウスができることで、下関市にとってすべての面でプラスになるはず。建築家としてのキャリアを生かし、故郷を面白くできる。沖野はそう確信し、すぐに行動を起こした。

出発点となったのは、「アノ人」とのLINE

 沖野は2012年に東京・神田の居酒屋「UZU」を同郷の仲間たちとオープンさせていた。山口県の人が集まることができ、東京の人にも山口県の魅力を知ってもらう場所があればというコンセプトを元につくられた店だ。今回も、まずその設立メンバーに声をかけた。そのメンバーを主導し、この居酒屋を経営しているのが安倍昭恵・首相夫人だ。彼女もまた安倍晋三・首相の故郷でもある下関市に特別な思いを持っている。「今回も昭恵さんと一緒につくることができれば、絶対に面白くなる」

 彼女とどういうやり取りをしたのか。沖野に尋ねると、「実はLINEだったんですよ」と、笑みをこぼしながら携帯を見返す。「下関市にゲストハウスを作れないかなと思っています。山口県に観光客を呼ぶために、色々なタイプの宿泊施設が必要かなと思いまして。今度、1、2時間でもお時間をください」と送った。忙しい昭恵さんからすぐに返事は来ないだろうと思っていた。しかし、返事が来たのはその3分後。「実は、私もそんなことを考えていました」。沖野の思いが「渦」となり、大きく前進した瞬間だった。

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 二人が出会った場所でもある「長州友の会」。東京にいる山口県人が集う会だ。さっそくその仲間に、ゲストハウスプロジェクトに協力してもらえないかと、相談を持ちかけた。さらには、山口県出身ではない人やゲストハウスに馴染みがない人など、色んな人々も巻き込んでいった。いつも打ち合わせは「飲み会の雰囲気」だという。飲みながらワイワイと、言いたいことを言い合うのが、長州友の会流。個々の意見やこだわりをしっかり持った仲間が中心になり始動することになった。「『UZUハウス』という名前もたこ焼きパーティーの時に決まったんですよね。これからもっともっといろんな人や意見を巻込んで、形にしていきたいですね」

「この建物は貸せません」

 ところが、「UZUハウス」プロジェクトが始動して間もなく、大きな壁にぶつかることとなった。建物の決定までが長い道のりだったのだ。ゲストハウスとして使えそうな物件をネットで探していると、1,000平米ほどの6階建ての建物が安くで出ていた。そこは下関市の歴史的観光スポットである安徳天皇を祀った赤間神宮の前。それに関門海峡も見渡すことができる。

「これはいい!」。すぐに不動産屋に電話してみたが、「オーナーに今は貸す気がない」と断られてしまった。そう聞いて、一度は諦めた沖野。しかし、考えれば考えるほど、あんなに最適な場所は他にないと思った。1000平米あれば、ゲストハウスだけではなくカフェも作れるし、テナントも入れられる。従来のゲストハウスとは少し趣向を変えた楽しいことができるのではと想像が膨らんだ。

 沖野はもう一度、不動産屋に電話し、「オーナーに直接話をさせてください」と頼み込んだ。しかし、またもや個人情報なので駄目だとキッパリ。沖野はそれでも諦められなかった。不動産屋を介さず、自分でオーナーにコンタクトできないか。

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「手紙」を携え、直談判

 いろいろな人の助けもあり、なんとかオーナーの名前まで辿り着いた沖野。今度は下関市の知人に、そのオーナーとツテがないか聞いて回ったが、皆知らないという返事だった。ゲストハウスプロジェクトを開始するにあたり、下関市で「UZUハウス」に協力してくれそうなメンバーを集めてミーティングした際、ダメもとで、建物のオーナーの連絡先を探している話をすると、「ああ、その方のご子息となら知り合いだよ」と市議会議員の知り合いが一言。その場で電話をかけてくれた。諦めかけていた頃だったので、その喜びはひとしおだった。

 その電話を受けたオーナーのご子息はミーティングに来てくれ、昭恵さんの熱い説得も手伝ってオーナーであるお母様に話をしてくれた。後日、昭恵さんの手紙を携えてオーナー宅を訪問し直談判。沖野の熱意が伝わり、「そういうことに使うのであれば、いつでも協力しますよ」と、快諾してもらうことができた。

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目指すのは、ゲストハウス自体が「小さな街」

「『UZUハウス』には、誰でも来て欲しい」と語る沖野。日本全国からも、世界中からも、老若男女問わず、来てもらいたい。普段ゲストハウスに来ないような人も、来てもらえる場所にしたい。「ここを拠点にして、下関市の他の所へも足を運んでもらいたい」

 下関市は、福岡に宿泊し、そこを拠点にして立ち寄る観光客が多い。観光地として有名な唐戸市場だけを回って数時間で帰ることが多く、宿泊してまで他の場所を観光する人が少ないのが現状である。そうした厳しい状況を乗り越えて、できるだけ長い間滞在してもらいたいと、下関市ならではのアクティビティも沖野は計画しているという。漁船体験や、酒造で酒づくり体験。下関市で伝統工芸を伝承する人、新しいことを始めようとする元気な若者にも会ってほしい。もっともっと下関市という街の魅力を知ってもらえる仕掛けをしようと企画中だ。

 さらに、沖野は「ぜひ、下関市の人々も『UZUハウス』に来て欲しい」と語る。「カフェやテナント、イベントなどを通じて、下関市の人々と滞在している人々との交流が生まれる。そういう『小さな街』のような場所になればいいですね」

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下関市から巻き起こす新たな「渦」

 下関市には、人と人との強い繋がりがある。東京では、様々にあるたくさんのコミュニティの中で、お互い無関心でいることが多いが、下関市は一つの大きなコミュニティで、皆が繋がっている。「○○くんがレストランをオープンしたんだって」「○○ちゃんが結婚したんだって」という話はすぐ耳に入る情報だ。だからこそ、プロジェクトを進めるときに、人間関係の難しさもある。自分は下関市の人間だと思っていても、一度東京に出てしまうと、戻っても余所者のように扱われることもある。それでも、一人ひとりと話し合って、理解してもらいたい。ゲストハウスづくりに、下関市の繋がりの強さを生かしていきたい。

「ここまで自分が主導することになるとは思わなかった」と、照れ笑いする沖野。気がつけば下関市を愛する彼は「渦」の中心となり、たくさんの仲間を巻き込んできた。そしてこれからもどんどん「渦」は大きくなり、世界中の人々を巻き込んでいくはずだ。「UZUハウス」をきっかけに、ローカルでグローバルな取り組みに挑戦をする下関市を盛り上げていってほしい。

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Photographer: Tomoko Suzuki
Writer: Junya Shinohara

2016年春オープン予定
UZUハウス
山口県下関市阿弥陀寺町7-8
www.facebook.com/uzuhouse

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