“ワンクリック”で部屋が綺麗になる!新時代ストレージビジネス
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小さな部屋暮らしの都市住人を救う、新時代ストレージビジネス

部屋が小さい。だから、所有物は最低限にしておこう。そんな試みはもうしなくていい。だって、これからはいくら所有してもまったく部屋のスペースを取らないのだから。一体どういうことかって?ワンクリックで自分の“現実世界の荷物”を「アップロード」「ダウンロード」できるようになったのだ。「空間を売る」新しいストレージビジネスのおかげではじまる、捨てない生活。

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予期せぬ恋人との別れを救う!

 ニューヨークはアメリカでも例外的に居住スペースが小さい。広いアメリカなのに何を好んでこんな狭いエリアに密集して住むのかと、東洋から来た元祖「ウサギ小屋」の住人はいつも疑問に思うが、ぐしゃっと固まったこの「おしくら饅頭」状態が世界の経済と文化に活力を与えているわけだから文句はいえまい。

 当然一人暮らしの若者が多く、家賃は年々うなぎ上りなので、狭いアパートをさらに3、4人で区分けして暮らす人も少なくない。「シェア」といえば聞こえがいいが、30〜40代を超えても、極端な話、高齢者でも「ルームメイトがいる」のはザラ。ニューヨーカーは狭い暮らしに慣れ切っているのだ。

 とはいえ、長年住めば貯金は貯まらずとも私物は貯まる。ルームメイトの手前、際限なく増やすわけにもいかず、さして大事な高校の卒業アルバムとか、初めて作ったバンドの自主制作CDとか、誰でも持っているけど特別な愛着のあるスターウォーズ・グッズだとかをおいそれと捨てるわけにもいかない。

 そこで、つい頼ってしまうのが、街はずれにあるパーソナル・ストレージ。日本でいう「トランクルーム」だ。エリアや倉庫の中の位置によって値段はまちまちだが、大体月65ドル〜105ドル(8,000円〜1万2,000円)する。年間にすると15万円程かかってしまう。

 えてして私物処理の命令は突然、何の予告もなく下りてくる。たとえば、同居していたガールフレンドとの突然の別れ。遊びのつもりの浮気がバレた時など大変である。私物をすべてアパートから舗道に投げ捨てられ「ゲッラウトオブヒアー!」なんてドラマは、テレビをつけなくても毎日、そこら中でやっている。

 大家からの家賃アップの急告も困る。「明日までに、2倍に上がった新家賃を払わないなら荷物ごと追い出す」などと理不尽きわまりない要求を突きつけられた仕事仲間の一人は、最小限の私物をかかえ、チェルシーのゲイの友人のアパートに一時避難してたっけ。

“捨てられない過去”の保管料金、高過ぎ

 こうした予期せぬ状況で人の足下を見るのが、ほかならぬ「パーソナル・ストレージ」屋。私物処理で頭が一杯のときは、人間だれでも気弱になっているので、月65ドルかあ(日本円で8,000円ね。いいかあ…)なんてぼおっと承諾してしまう。ところが、よく考えてみたまえ。65ドルもあったら、スポーツクラブに加入できるし、ニューヨークではちょっとお高い大戸屋や一風堂で3回もディナーが食べられる。

 しかも、65ドルで一体、月に何回ストレージを利用する?僕の友人は2年前にストレージを契約したものの、3ヶ月に一度の頻度でしか行かない。大多数のストレージは街外れにあって、アクセスが面倒。荷物の出し入れにもタクシーを使うからさらに経費がかかる。はっきりいってストレージは金食い虫なのだ。

 さらにタチが悪いのは、ストレージ屋は知らず知らずのうちに賃料を上げてくる。月々の支払いを滞納しようものなら、鬼の首を取ったような勢いで「延滞料」の追加請求。それも無視すると、倉庫差し押さえで、滞納分を全額払わない限り私物の引き取りも許してくれない。ヒドいときには、支払いが遅れたからといって大事な「私物」を競売にかけられてしまうこともある。

 それでもストレージを使い続けるアメリカ人たち。彼らも、捨てられない悲しき消費者なのだ。いったい何を預けているのだろうか?ちょっと覗かせてもらうと、古いレコードやCDのコレクション、アニメやテレビドラマの記念品。海外旅行で買ってきた不気味なエスニック土産、先祖伝来のアーリーアメリカン調家具、二度と乗らないだろうスケボ、もう使わないだろう古いスキー、膨大な納税関係書類、子どもの図工作品、なんで要るの?モノクロ時代のマッキントッシュ…。文字にするとしょうもない物ばかりだが預ける本人にとっては貴重品。

 いらないものは潔く捨てる断捨離が流行って数年だが、捨てられない人間もいる。もしもドラえもんの四次元ポケットのごとく「いくらでも入って、いつでも簡単に取り出せる」ことができたら、「それでも潔く捨てるのだ!」といえる人は一体どれだけいるだろう。

超巨大倉庫が実現する仮想空間

 厄介だけど「必要悪」のストレージ。売り上げ総額240億ドル(2兆8,800億円)という大産業に新しい一石を投じたのが、2014年に起業したMakeSpaceというベンチャー企業。自宅のスペースをまったく取らずに好きなだけ保管、好きなときに取り出せる。まさに四次元ポケットのようなストレージを生んでくれた。

 どういうものかというと、預けたい荷物を指定のビン(ボックス)に入れておくと配送部隊が指定の時間にピックアップして倉庫まで運んでくれる。いちいちストレージまで車を使って運び込む手間が省けるだけでもありがたい。この「出荷時」に、ビンの内容を写真に記録してデータ化するので、あとで何を保管しているかが一目瞭然となる。ウェブサイトにログインすれば、24時間いつでも確認できる。

 ビンはミニマム3個で、月25ドル(3,000円)と明朗会計。自転車やバーベキューのグリルなど不定形な物は料金が多少異なるが預け方は同じ。必要なときは“取り出したいもの”をワンクリックすると、一回29ドルで指定の場所に届けてくれる。

 コンピュータでいえばDropboxのアップロード、ダウンロード感覚に近い。クリック一つで使えるストレージ。配送部隊の愛称も「アップローダーズ」だ。仮想空間の利便さを、現実社会に適応しているところがウケている。

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 MakeSpaceはラウル・ガンジーとサム・ローゼンという二人の起業家が約1,010万ドル(約12億円)の初期投資を集めてニューヨークで創業した。ラウルは、AOLやバンク・オブ・アメリカで経験を積んだ投資の専門家。サムは、企業講演会のスピーカーを選択、手配するサイトSpeakerGramの発起人でもある。「2012年秋のハリケーン・サンディーのときに、僕自身、私物を巡って大変な思いをした。それが起業のきっかけだよ」。超多忙なサムにHEAPSはちょっと気になったところを質問してみた。

 240億ドルとすでに巨大なストレージ産業。新しいストレージサービスといっても誰が使うのだろう?

「まったく新しい人たちだね。このコンセプトを思いついたときから、僕らのお客さんは従来のストレージ利用者とは違う層を想定していたんだ。いままではストレージとえば、結婚、親族の死亡、被災、生活のダウンサイジングなどで、「絶望的な状況」に陥ったときの救済策として使われるのが主だった。MakeSpaceは、そういう個別の一過性の解決策ではなく、『日常生活の中で便利なツール』として使えるストレージを目指している。だから今までストレージなど見向きもしなかった人たちがクライアントになっているよ」。なるほど、明らかにネット世代を狙っている。Dropboxに置いた大容量のファイルや画像、動画を自由に出し入れするあの感覚、それがMakeSpace体験なのだ。

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“恥ずかしいコレクション”、もう隠さない

「究極的にはストレージ業界に革命を起こしたい。手始めに狙っている層は、都市生活者だけど、近い将来、郊外や農村部にも普及させたい」。サムの夢は全米規模で膨らんでいる。事業はニューヨークを皮切りにワシントンD.C.とシカゴに展開する予定だ。ニューヨークの場合、隣州ニュージャージーのジャージーシティに総床面積6万平方メートルの巨大な専門倉庫を構えた。「ニューヨークから始めたのは自然な選択だった。というのも、この街では極小スペースに住む習慣が根付いているし、食料や衣料、書籍、電子機器などオンデマンドで購入するのが当たり前になっているからね。僕らのストレージサービスも、そうした『ワンクリック』の消費スタイルのなかに位置づけたかったんだ」

 急速に利用者を増やしているMakeSpace。大口出資者の中には、俳優のアシュトン・カッチャーやNYニックスのバスケットボール選手でデジタルアスリートの異名をとるカルメロ・アンソニーもいるというから、ヒップなブランドになりつつあることは間違いない。

 思えばコンピュータ技術の進歩とともに人類は、現実空間でできない超便利なサービスを仮想空間で実現する試みをずっとやってきた。瞬時でできるオンライン決済や電子マネー、だいぶ前に流行った「セカンドライフ」、そして大容量ファイルのやり取りなどなど。ところが、ここに来て逆の現象が起きている。仮想空間の利便性を現実にも応用しようとする動きだ。 MakeSpace は、まさにその一例。

 少なくともこのアイデアのおかげで、いやらしいストレージ会社の請求書は避けられるだろうし、泣く泣く捨てる生活におさらば。それから、「どうしてもとっておきたいが、家族に見られたくない」なんて秘密のコレクションを、安心して持っておける生活がやってくる。

makespace.com

Writer: Hideo Nakamura,  HEAPS

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