ドナルド・トランプの「墓」が出現。殺人予告か、アートか?逮捕寸前の制作者(男)にその真相を聞いた

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11月8日に控えるは次期アメリカ大統領選挙。異端児ドナルド・トランプか女性初となるヒラリー・クリントンか、アメリカ全土が注目する喜劇の裏側で、ドナルド・トランプの「お墓」が発見され、話題騒然になった。

殺人予告か、アートか。それとも腹いせ?

今年イースターデイ(キリストの復活を祝う日。今年は3月27日)早朝に、ニューヨークのみんな大好き憩いの場・セントラルパークでなぜか墓が発見された。
それも、お茶の間で暴言を吐きまくり紛れもなく健在な「ドナルド・トランプの」だ。

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Image via Brian Whiteley

殺人予告かアートか、それともただの腹いせなのか? 主要メディアがこぞって取り上げ大騒ぎになった「ドナルド・トランプのお墓」。

一時は“容疑者”とまでなった墓の作り手は、アーティストBrian Whiteley(ブライアン・ホワイトリー)33歳。
「大統領候補のお墓作っちゃった」なんておふざけで済むはずがない。この作品で社会に訴えるメッセージもさぞかし大層なことだろうと勝手に予測し、その真相を聞くべく本人に直接会ってきた。

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HEAPS(以下、H):こんにちは。ブライアンさん。はじめに自己紹介お願いいたします。

Brian Whiteley(以下、B):こんにちは。遅れてごめんね。僕の名前はブライアン・ホワイトリー。アーティスト兼キューレーターとしてニューヨークで活動しているよ。

H:まずはちょっと気になる質問を。大統領選挙、もし差し支えなければ、どちらに投票するか教えていただけますか?

B:もちろんヒラリー・クリントンさ。だってこれまでで一番最悪な(でも当選の見込みのある)候補者トランプかの二択しかないんだから(笑)。
このあいだの演説でもトランプは明らかにモラルが欠けていると思った。国の代表となる人のすることではないよ。

H:ということは、ヒラリーで確信している。

B:ヒラリーが当選すると強く感じるね。

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H:もし、トランプが当選した暁には、アメリカになにが起こりますかね?

B:もし彼が当選したら国民の多くが他の国に移り住むと思うよ。カナダとか。

H:この大統領選挙はアメリカ国民にとって、大きな岐路ですね。では本題ですが、物議を醸した「トランプの墓」を作るきっかけを教えてください。

B:彼に考え直して欲しかったんだよ、態度そのものを。特に女性や非白人層を軽視し差別した発言は大統領候補にふさわしくない。
墓を作って彼の名前を刻めば彼の目に確実に入ると思ったんだ。

H:ドナルド、間違いなく見ましたね。

B:彼のスローガンである「Make America Great Again(メイク・アメリカ・グレート・アゲイン):アメリカを再び、偉大にしよう」を文字って、「Make America Hate Again(メイク・アメリカ・ヘイト・アゲイン):トランプは再びアメリカをダメにする」という文言とともにね。

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H:「Make America Hate Again(メイク・アメリカ・ヘイト・アゲイン)」は秀逸でした。

B:「ヘイ!ドナルド!これを見ろよ!君はただのセレブリティービジネスマンなんだよ」って伝えたかった。いまやレイシスト(人種差別)、セクシスト(性差別者)、ミソジニスト(女嫌い)な政治家として名高い暴言王サマに伝えようと思ったんだ。アーティストとして責任のある行動でね。

H:では、ポリティカルアートだということですね?「トランプのお墓」完成までの経緯を教えてください。

B:アイデアが浮かんですぐに加担してくれる墓石を販売するお店を探したよ。これが大変だった。まあ「実存する人のお墓を作る」というプロジェクトに加担しようなんて思う人の方が少ないよね。犯罪になりうるわけだし。

H:多くの墓石業者から断れられた。

B:うん。アーティストとよく仕事をしている石を扱う業者があって、そこに依頼をしたよ。「トランプの墓を作りたい」って依頼したときは「うーん」って感じだったんだけど、結局納得してくれたよ(笑)。

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H:墓石を作るって結構なお金かかりますよね。資金調達はどのように?

B:僕の作品のコレクターたちに資金援助を頼んだんだ。無事資金を得ることができて、その足でお墓を作りに行った。

H:次の行動が早い!

B:墓石を作る際は、お店の裏手でブランケットの下に潜りながらの作業だよ。見つからないようにね。業者だって、自分たちが作っているものが「トランプのお墓」だなんて知られたくないからね(笑)。

H:犯罪になりかねないですもんね。そして、今年のイースターサンデー(2016年3月27日)に決行した。なぜこの日に?

B:トランプはキリスト教だし、それに祝日って街に警察も少ないから。

H:430ポンド(約195キロ)もある墓石、どうやって運んだんですか?

B:二人の友人に助けてもらったよ。「せっかく作るならもっと大きい物がいい」って言われたんだけど、運ぶことを考えたらそれ以上大きなものを作るのは無理だった。

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H:三人いてもだいぶ重いですよ。

B:僕が引っ張って、前方後方に見張り役としてトランシーバーをつけた友人がいるって感じ。早朝4時のセントラルパークで。

H:え、二人は見張りだったんだ? 大変でしたね。それにしても用意周到。セントラルパークを選んだ理由は?

B:トランプタワー(ドナルド・トランプが所有する高級アパート)の目と鼻の先だからね。

H:なるほど。運んで、その後は?

B:朝日の昇りとともに写真家の友人に証拠となる写真を撮ってもらって一旦その場を去った。そして6時間後、現場に戻ったよ。

H:「犯人は必ず犯行現場に戻る」ってやつですね?

B:そうだね(笑)。少し離れた場所からそこを見ていたんだけど、警察がちょうど墓を回収する作業に取り掛かっていたとき。その時には人だかりも出来ていたよ。
その後、即「ドナルド・トランプの墓」はニュースになって、「殺人予告」だって大騒ぎ。

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H:キタキタキタ。

B:この辺りから「捕まる」ことに恐れ出した。あるメディアでは「バーニー・サンダースの支援者が腹いせに作った紛れもない殺人予告」なんて報じていたし。

H:追われている身としての生活はいかがでしたでしょう?

B:まるで映画だったよ。家の窓から外に警察がいないか確認したり、携帯電話のようなGPSが付いているものは全部オフにして、なるべく家に留まらないように外に出たり。

H:でもその後、警察があなたを突き止めたんですよね?

B:そう。それで、顧問弁護士に「これはあくまでアート作品であり、殺人予告ではないという声明を世に出した方がいい」と言われて、匿名でその声明を出したんだ。
そしたらその声明で出した写真の背景が、あの墓石業者で。そこを警察・シークレットサービス(諜報部)が見つけ出して、僕のところに来たんだ。セントラルパークに埋めてから1ヶ月半後のことだった。

H:家宅捜索だ。

B:「ドナルド・トランプ殺人予告容疑者」として様々な尋問にあった。銃を所持していないか、政治集会にこれまで参加したことがあるか、どんな本を読んでいるかとか。

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H:その後、晴れて無罪放免。よかったです。ちなみに弁護士さんに相談されていたということは「逮捕」覚悟でのプロジェクトだった?

B:うーん、まあ覚悟というか予測はあった。「逮捕」を避けるため、このプロジェクトをはじめる前に顧問弁護士にあらかじめ相談していたんだ。「没年は絶対に刻むな」と忠告されたんだ。もし、そこに刻んでいたとしたら、今頃僕は刑務所(笑)。

H:これほどまでの騒動もあらかじめ予測されていた?

B:もちろん。でも実際は僕の想像をはるかに超えてたね。警察は来るわメディアからの連絡は絶えないわ、さらには僕に殺人予告まで来るわで大変だったよ。

H:殺人予告まで! まだまだメディアからのラブコールが絶えないブライアンさんですが、未だ話していない「ドナルド・トランプの墓」の秘密、何かあれば教えてください。

B:そうだなあ…。あ、そうだ、さっき資金調達の話したでしょ? 僕の作品のコレクターであり、墓石の資金を提供してくれた人なんだけど実は医療用大麻の取引で大枚を稼ぐ、その道の人だったんだ(笑)。今回のプロジェクトは会社ではなく、彼のポケットマネーからだけど、いわば大麻が作った「ドナルド・トランプの墓」ってことだね。(笑)

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H:!!!「ドナルド・トランプの墓」はアングラマネーで作られていた! サービス心旺盛な回答ありがとうございます。

B:ハハハ。

H:露骨な質問になりますが、結局この「ドナルド・トランプの墓」は売名目的で作られたものなんでしょうか?

B:ある人にとっては売名目的なアート、ある人にとってはゲリラアート、バズマーケティングアート、はたまたポリティカルアートになるんじゃないのかな。なんと言ってもらっても良いんだ。みんながどう捉えるかはその人の自由だから。僕にとっては、ただ自分の感情を表現したに過ぎないけどね。

H:ゲリラアートやストリートアートに多く見受けられる「アートか否か」議論がありますが、「ドナルド・トランプの墓」はアートなのでしょうか?

B:もちろんこれは公に向けた100パーセントのアート。アーティストとして、世の中に議論の機会を提供する。気づき、討論し、考えを持ってもらうために僕はこれからも活動していくよ。

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H:自分の墓を拝んだトランプは以前として変わらぬ調子です。

B:そうだね。もう彼はどうしようもないよ(笑)。

H:これからもこの題材について、模索を続けますか?

B:いいや。僕はポリティカルアーティストではなくて、今回の作品はいちアーティストとしてだけでなく、いち人間としての感情が出たものなんだ。

H:最後に、この「ドナルド・トランプのお墓」は非売品と聞きましたが、今後の行き先はどこに?

B:販売しているよ。ただ、真面目で信用できるコレクターのみに販売する予定。こんな作品だから、見知らぬ人に販売することはできない。
「展示させて欲しい」っていう問い合わせを沢山もらっているから、この大統領選挙後、「ドナルド・トランプの墓」が世界を巡回すると思う。もしかしたら日本でも「ドナルド・トランプの墓」が見れる日が来るかもね。

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Brian Whiteley

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Photos by Kohei Kawashima
Text by Shimpei Nakagawa and HEAPS

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