自宅で本格ビール造り

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ウィリアムズバーグで開催された自家製ビールの試飲会「Brew Pub」に自作を出品していたホーム・ブリューワー、Sam Burlingame(サム・バーリンゲーム)のお宅を訪問して、ホーム・ブリューイングの楽しみについて話を聞いた。平日はモルガン・スタンレーのコンピュータ・プログラマーとして働くサム。ビール造り歴4年。今では週末のほとんどの時間をビール造りに費やすとか。ブルックリンにある自宅にはビール専用の鍋や冷却器、糖度計、熟成用冷蔵庫など器材が所狭しと並ぶ。

最近のニューヨークのビール事情をどう思う?

クラフトビールといわれる少量生産で高品質のビールはすっかり定着して、今やニューヨーク産のクラフトビールが注目されてるね。昨年もクイーンズでいくつか醸造所がオープンして話題を呼んだし、今年になってブルックリンでも小さな醸造所ができた。みんな、新しいビールができると「どこで飲めるんだ!?まだ在庫はあるのか!?」って目の色を変えて聞いてきますよ。

ブームの根源にあるものは?

僕の住むブルックリンに限っていえば、地元産の食材を非常に重要視するようになってきたね。地産地消の取り組みや自然食、そして持続性のある農業への関心が原動力の一つになっているんじゃないかな。ローカルの中小企業を支援しようという気運も高まっている。

ビールの味に対する感覚にも変化が?

そうだね。みんな新しい味に対する好奇心は強い。クラフトビールと聞くと「どんな味?材料は何?俺も造ってみようかな」っていう気になりやすい。だからホーム・ブリューワーも増えてるんだよ。僕なんかも常に仲間の造るビールの味や製法、材料に関心があるね。ある意味、ブリューワー同士で味の「張り合い」は生まれている。

ビールに関してサム自身は「おくて」だったそうですね。

大学を卒業するまでビールには関心がなかった。飲んだこともなかった。ところが2004年に、友人と二人でヨーロッパをバックパックで旅をしたときにふと美味いビールを探してみようと思い立ったんだ。まずはベルギー。ラズベリー味のビールとかいろいろあったけど、僕にはちっともピンとこなかった。次に、オランダに行ったら「Heineken(ハイネケン)」ばっかり。まずくはないけどフツーだ。最後に、ドイツに移動して人生を変えるようなビールに出合った。ドレスデンで飲んだ「Dunkel Weiss(デュンケル・ヴァイス)」という種類のビール。ヴァイスビールなのにダーク。未体験の味に打ちのめされた。ついに僕のビールの価値基準ができた。それからさ、心底ビールを楽しめるようになったのは。

ホーム・ブリューイングを始めたきっかけは?

急激にクラフトビール・ブームが湧き上がった2010年、ブルックリンのホーム・ブリューワーを訪ね歩くツアーに参加した。その時、飲んだのがどれもワイルドでクレイジーなビールばかりで、こんなに個性的なビールが造れるんだって感動したんだ。それから、地元にあるホーム・ブリューワリー専門の店に駆け込んで、約50ドルの初心者用のキットを購入。早速、自分で造ってみた。
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最初の自家製ビール、できはいかがでしたか?

人生最初の自家製ビールは、まあまあってところかな(笑)。決してひどいできじゃなかったし、ちゃんと飲み干せた。種類は初心者なら誰でも造る「イングリッシュ・ブラウン・エール」をボトル48本分仕込んだけど、2週間の醸造中に室内の気温が上がりすぎて、1本はビンが破裂。残りのボトルは炭酸が多すぎて味はいまいちだった。でも、この失敗が刺激になって2回目に奮起して造ったパンプキン(カボチャ)フレーバーのエールは大成功だった。毎回色々な味付けを実験してみるんだ。例えば、チョコレート味にも挑戦したけど難しかったし、最大の失敗は「スコティッシュ・エール」。スモーキーで濃厚なビールができるはずだったが、とても飲めた代物じゃなかった。最近は醸造用のクーラーを購入したから、温度調整が正確にコントロールできるようになり、ビールの質が上がった。

月に何リットルぐらいビールを醸造しますか?

平均10ガロン(約40リットル)ぐらいかな。法律で許可されている個人醸造量は年間100ガロンなので、それを超えないようにしている。

造る種類は?

よく造るのはIPAだけど、僕は実験好きなのでIPAにもひねりを入れる。例えば、僕の十八番は「ブラック・スモークIPA」。IPA特有のホップの苦みがありながらドイツの黒ビールの要素を掛け合わせる。スモーキーなフレーバーで友達の評価も高いよ。

ビール造りの楽しさとは?

まず、ビールを造る工程そのものに心を鎮める瞑想的な要素があるよね。レシピを考えるときは音楽をかけてイメージを膨らませて、自由に素材を選ぶ。日頃のストレスは全部忘れられる。そんな中から素晴らしい味のビールができたときの喜びはひとしおだね。あとは、自分の造ったビールをみんなが美味しいと言って飲んでくれる瞬間がたまらない。特に、妻が喜んでくれたときはこの上なく嬉しい。彼女の笑顔のためにビール造りしているといっても過言じゃないよ(笑)。

日本でホーム・ブリューイングをやろうと思っている人へアドバイスを。

第一に、1回目で失敗しても決してくじけないこと。それから大事なのは仲間を見つけることだね。ブルックリンにはホーム・ブリューワーのコミュニティがあって常に情報交換やお互いの自家製ビールを飲み合っている。ホーム・ブリューイングの品評会も定期的に開かれている。最大の魅力は、ビールを通じて友達ができること。そもそも、ビールって世界共通の飲み物だし、それでいて、各国各地でその味や歴史にもの凄くバラエティがある。そこがビールの奥深さです。

市場に出回っているクラフトビールで注目しているのは?

あまりにも沢山ありすぎて答えに困るけど、今一番気になっているのはフロリダ州タンパのシガー・シティ醸造所が出している「Jai Alai(ハイアライ)」というIPA。柑橘系の香りと風味が抜群だよ。あと、黒ビールだったらミシガン州のファウンダーズ醸造所の「Breakfast Stout(ブレックファスト・スタウト)」かな。コーヒーやチョコレートも使って実に濃厚な風味を出している。

ホーム・ブリューイングの流行、これからどうなると思う?

日本もそうだと思うけどアメリカは長い間、大手メーカーの造るブランドビールだけがビールと思われていた。それがクラフトビールやホーム・ブリューイングの流行のおかげで人々のビールに対する認識が大きく変わってきた。今までビールが嫌いだった人が自家製ビールを飲んでビールに目覚めることも多い。世間的にも自家製ビールの経済効果は認められていて、ホーム・ブリューワーと商業的ビール会社との交流も生まれている。僕たちにとっては、専門家の器材やノウハウに触れられる絶好のチャンスだよね。この流行は、まだまだ続くと思うし、ますますアメリカのビールは美味しくなっていくと思うよ。

最後にサムにとってビールとは?

難しい質問だなあ!簡単にはまとめられないよ。まあ、僕にとってビールとは「仲間であり世界の文化を知る手だてであり、最高の個人的快楽…」といったところかな。一言で言えば“Beer is good”それに尽きるね。

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掲載 Issue 16

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