歌詞を「再生する」スピーカー もう一度、曲のメッセージを届けるために
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SXSWの目玉コンペティション・イベント、アクセラレーターで「Best Bootstrap Company」をアジア勢で初受賞した、博報堂グループのクリエイ ティブエージェンシー「SIX」。彼らが開発した、曲が流れると同時にその歌詞を 表示する次世代型スピーカー「Lyric Speake(r リリック・スピーカー)」は、音楽 サービスの投資家でもある審査員のハートをがっちりつかんだ。SXSWでの経 験について、SIXのクリエイティブディレクターである斉藤迅(じん)に聞いた。

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SXSW、「音楽」の登竜門

 音楽イノベーションといえば、SXSW。「本当の音楽好きがど う思うのか、それを見てみたかった」と、参加の動機について語 る斉藤。SIXは、博報堂でクリエイティブディレクターとして働く 6人による会社で、それぞれのクリエイティビティとエッジを生か しながらチームを組んでいる。SIXが掲げるキーワードは「アップ デート」。生活そのものを、テクノロジーを使ってもっと楽しくす るというビジョンを6人は共有している。

「音楽の楽しみ方をアップデートできないか」。人間の有史以 来、音楽はずっとともにある。しかし、ストリーミングで音楽を聞 き流し、ダウンロードで音楽を購入するようになって失ってしま ったことがある。それは、「歌詞を楽しむ」という行為だ。デジタル 配信が浸透し、いつでも気軽に音楽を楽しむことができるように なった一方、レコードやCDにあったような歌詞カードの需要が 減り、「歌詞をじっくり楽しむ」という機会が減ってしまった。そこで彼らは「歌詞を読みながら音楽を聴く楽しさをもう一度」と、音楽と同期して歌詞が表示される次世代型スピーカー 「Lyric Speake(r リリック・スピーカー)」を生み出した。モバイ ル端末から好きな音楽を選曲して再生すると、スピーカーの透 過スクリーンに歌詞が自動生成される。美しいモーショングラフ ィックで表示される歌詞を味わい、音楽に酔う。目と耳の両方で音楽を楽しむ。そんな体験をリリック・スピーカーはくれる。

日米の「歌詞」のあり方の違い

 500以上のエントリーがあったなか、Entertainment and Content Technologies部門 のファイナリスト8社に選ばれたSIXのリリック・スピーカー。日本企業としては初の快挙となったこのピッチ(投資家に向けた制限時間の短いプレゼンテーション)に向けたプロダクトを練り上げていく上で、斉藤が最も留意したのは、日米の歌詞のあり方の違いを踏まえた上で、どのように歌詞をビジュアライズするかだったという。

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「日本語と英語では、メロディに対する歌詞ののせ方が大きく違います。日本語では、一つの音に対して一つの音、たとえば、『あ』とか『い』がのります。しかし、英語だとそこがよりフレキシブルになります。こうした違いは、言語の違いからくるものです」ミュージシャンの顔も持つ斉藤は、メロディに日本語と英語の歌詞をのせる手法が違うことを踏まえ、その歌詞を自動でモーショングラフィックにする上で、どうグラフィックの作り方に違いを出すかこだわった。斉藤らのチームが取り組んだのは、ユニバーサルに刺さるプロダクトやデザインを作るという考え方だった。さらに、ストリーミング(キュレーション型)やダウンロード(ハイレゾリューション型)配信でデジタル化の一途をたどる業界で、「歌詞(メッセージ)を楽しみませんか」というアナログ的なアプローチが、リリック・スピーカーの存在を一層際立たせた。音楽に歌詞はつきものなのに、音楽を構成する半分といってもいいのが歌詞なのに、その存在感が薄れていた。盲点だった。そこに「歌詞」の存在を提唱する。このアプローチこそが、リリック・スピーカーにとんがりを与えた。

どの国でも聴ける、伝わる

 審査員の中には、リリック・スピーカーを「いますぐ欲しい」と、財布からクレジットカードを出す者さえおり、音楽の楽しみ方を再度提唱する、SIXのビジョンに共感を抱く者は多かった。また、「ハードウェアではなく、ソフトウェアでスキームしていった方がいいね」という審査員のコメントはSIXにとって大きな糧となった。なぜなら、それはチームとして考えていたことだったので、この後、何に注力すべきかを見定める後押しとなった。

 現在、来年3月の販売開始を目標に、スピーカーの生産が稼働中。SXSWで賞をとったことで内外からラブコールを受け、気づけば音周りでレベルの高いエンジニアがチームに加わっている。音楽の万国共通言語といわれており、そもそも訴求力があるコンテンツだ。しかしSIXはそれだけに甘んじない。「音楽を歌詞と一緒に楽しむ」というカルチャーのアップデートを世界中で起こすべく、プラットフォームのユニバーサル化を掲げている。つまり、ワン・アンド・オンリーなプロダクトではなく、ほかのメーカーが「歌詞表示スピーカーをつくりたい」といったとき、リリック・スピーカーのAP(I Application Programming Interface、コンピュータプログラムの機能や管理するデータなどを、外部のほかのプログラムから呼び出して利用するための手順やデータ形式などを定めた規約)を提供する準備がある。リリック・スピーカーのAPIをチップとして組み込めば、どんなプロダクトでも同じ機能を持つことができる。

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「社会全体に音楽を聞きながら歌詞を楽しめるプラットフォームを」。そのビジョンを実現する技術はすでにあり、メーカーも興味津々だ。斉藤は、「歌詞が文字となり目と耳と深く入って、メッセージがより伝わり合うようになれば、そこから生まれる交流もあるはずです」と、音楽のメッセージ性に期待を寄せている。たとえば、マイケル・ジャクソンやライオネル・リッチー、ダイアナ・ロス、スティービー・ワンダー、レイ・チャールズらアメリカを代表するアーティストが集い、アフリカの飢餓救済を呼びかけたチャリティーソング『We Are The World』は、世界を変えた一曲として語られている代表作だ。メロディーはもちろんだが、歌詞のチカラが人を動かし、世界規模のチャリティー運動となった。斉藤は、音楽と歌詞のチカラを信じている。

音楽の未来は、“欲しい・楽しい”が鍵

 SXSWの最大の魅力について「音楽ファンが集まるフェスだから」と語る斉藤。ソーシャルグッドなビジネスやプロダクトがもてはやされるなか、SXSWには、「自分がやりたいから」という自己的だが周りを巻き込むような勢いのあるものが多く集まる。社会のため、人類のためではなく、自分のアイデアを信じ、純粋にやりたいと思っていることを「これどうよ?」と見せてくる。真っ直ぐで荒々しい。とっつきやすく、一緒に楽しもうというマインドがある。だから盛り上がる。「音楽好きの性質と似ていると思うんですよね」

 年々規模が大きくなるにともない、売名やテストマーケティングのためにSXSWに参加する企業や団体はもちろんある。しかし、根底的に、みんながみんな「お祭り好きの音楽好き」で、自分のアイデアを信じているタイプの人間。評価されるされないを意識してやっているのが見えてしまうと「かっこわるい」と思うのが、音楽をする人間。自分が「これがいい!」と思っていてこそが表現であり、それがなかったら、聴く側も聴く気にはならない。音楽祭としてはじまったということもあるが「、自分のアイデアを信じている人が、ただ集まって何かやっているというのも、SXSWらしさで魅力だと思います」。音楽とITには親和性がある。ユニバーサルなテクノロジーを使い、歌詞のチカラで、聴くだけではなく見る・読む音楽を可能にするリリック・スピーカー。ハイテクのいまだからこそ、アナログの要素が光るのかもしれない。

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ギミック付きページを見る。

lyric-speaker.com

Writer: Kei Itaya

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