「渡辺直美、芸能活動休止、 ニューヨークへ留学。」
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芸人 / Naomi Watanabe naomi_watanabe_03
 カメラを向けられ、くるくると表情を変えていた渡辺が、真剣な瞳でカメラマンと一緒に写真をチェックする。「That’s great!」(いい感じ)と微笑み、親指を立てた。渡辺はこの日、自身がプロデュースするアパレルブランド「PUNYUS」の撮影で、マンハッタンとブルックリンをまたにかけて飛び回っていた。

 ニューヨークにやってきて3ヶ月弱。英語とエンターテインメントを学ぶ毎日だったが、プロの感覚は鈍っておらず、むしろ水を得た魚のように生き生きとしていた。現場にはいい緊張感があった。レギュラー番組を4本休み、そのほかの仕事も「降板覚悟」で決断した“エンタメ留学”。彼女は、時間が限られていることを誰よりも知っていた。「もっと自分を追い込んで、表現者としてのキャパシティを広げたい」

 筋金入りの努力家だ。中学校卒業後、アルバイトで貯金をし、18歳で吉本興業によるタレント養成所、吉本総合芸能学院(NSC)に入った。二十歳でデビューしたものの、「周りが見えないまま、ひたすら走ってきてしまった。余裕がなかった」と振り返る。その反省が、渡辺を突き動かした。

「ニューヨーカーって余裕がありますよね。知らない人にも『Hi』って声がかけられるのって、余裕の表れだと思うんです。他者を認めることも普通にできて、そこがいい。私にはできなかった」

 仕事だけして誰とも話さずに帰宅。食事をして就寝。しばらくして起床、そしてまた仕事、その繰り返しの毎日。「仕事を単にこなしている状態だった。何のためにお笑いをやっているのかさえ、分からなくなってしまっていたんです」。新しいことをしようにも、仕事をしながらではなかなかできない。「効率が悪い。自分が本当にしたいことのために必要なステップを、3ヶ月休みをとって、確実に手に入れたいと思ったんです」。渡辺の決断は、真っ直ぐなまでの仕事に対する姿勢と、自分を見つめ直したいという願いからだった。

「得意」をとことん伸ばす 掲げた目標は必ずクリアする  大喜利が苦手だという。「芸人なんだからできなきゃダメだ」と思い悩んでいたが、先輩からの「短所を伸ばそうなんて諦めて、長所を誰にもできないくらい伸ばせ。それに集中しろ」という言葉に目が覚めた。「芸人にもいろんなタイプがいて当然なのに、自分も周りも『芸人はこういうもん』って思ってしまってるところがある。『芸人はこうでないとダメなんだ』みたいな。でも、自分の得意なことをとにかく磨いて、誰にもできないくらいになったら、きっと誰も短所なんて気にしないはず」

 その気づきから、自分の得意・不得意に、改めて向き合った。一番好きなコントには、演技力や表現力が必要不可欠。その能力を高めたいと考えたとき、ニューヨークが頭に浮かんだ。24歳だった。機はまだ熟しておらず実現するのは3年後になったが、彼女は常に目標を立ててきた。それは、「毎年、去年やったことのないことをやる」というもの。「この番組に出たい」「こういう番組をやりたい」「映画に出たい」。目標を掲げ、その仕事をしている自分をイメージし、がむしゃらでも突き進むことで、その一つひとつを達成してきた。「仕事のおかげで今の私がある。その感謝を還元するためにも、私は自分が本当に何をしたいのか、突き詰めないといけない」。渡辺は切実な思いで二十歳から6年間、駆け抜けてきたのだった。
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18歳までの出会いが芸人の原点 一番なりたいのは「表現者」  中学のころから「人のまねばかりしてきた」からこそ、渡辺の観察力は鋭い。彼女のものまねを見て思わず笑ってしまうのも、納得してしまうのも、そこに誰かの姿を見るからだ。「いるいる、こんな人!」という共感が、彼女のものまねを特別なものにしてきた。

「なんでこの人こんなこと言ったんだろう、すごく嫌そうな顔してるな、こいついま嘘付いてんなとか、小さいところからそんな風に考えながら、人を見てきました」

 人は性格によって同じ状況でもまったく違う言動をするため、彼女はますます観察眼を磨き、ものまねの「ネタ」を増やしていった。「この人はこんな感じで嘘をつくんだ、こんな風に言い訳をするんだとか。観察しているうちに、自分もやりたくなってしまうんです」

 人間観察は「めっちゃ疲れます」。しかし、18歳までの出会いが自身の芸人としての原点。「ずっとまねをして人に合わせてきた私にとって、初めて『これだ』と思ったのが『芸人』だったんです」。彼らのまねをエピソードトークやコントで披露してきたが、「自分の中ですべてやってしまって、なくなってしまった」。だからこそ、新しい出会いと経験を求めた。一番なりたい「表現者」になるには何ができるのか、自分にできてみんなができないこととは何なのか。渡辺の頭の中はそればかりだ。
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人に笑っていてほしい ものまねは武器でもある  人のまねをすることが当たり前だった渡辺にとって、まねをされて嫌な思いをする人もいるという自覚が芽生えたのは、中学生のころ。「ものまねが原因で呼び出されて殴られそうになったりとかあって、その時はじめて『これで嫌な思いをさせているのか』と気づいたんです」。だからといって、やめることはなかった。「結局、嫌がられるか笑ってもらえるかの二つに一つだから、私は笑ってもらえる方をとったということだと思います。人が笑っているのが好きだから」

 渡辺にとって、まねをすることは武器でもあった。「人に対して、あなたのここが嫌だとか苦手だとか、面と向かって言えなくて。だからまねしてみるんです。もしもその人がそれでキレたら『あなたってこういうことしてるんですけど』みたいな」。他人は自分の鑑。「人の振り見て我が振り直せ」を実践しているのだ。人を観察することで、「どう伝えたら喜んでもらえるのか、イエスといってもらえるのか」も分かるようになったという。ものまねとは人間観察であり、処世術でもあった。

「疑わない」という強さ 原点に戻り「単独ライブがしたい」  ニューヨークで吸収したことを表現する場所は、単独ライブだと考えている。原点に帰り、「自分の表現をお客さんにみてほしい」と語る。ニューヨークでは、さまざまな出会いがあった。“日本基準では変な人”がたくさんいるニューヨークで、渡辺は新鮮な気持ちで人間観察をすることができた。そして、そこでも気づきがあった。

「例えば、駅の入り口の階段で、ずーっとスクワットとか激しくやってる人がいて、私は『こわっ』って思って、近づかないようにするんですが、ほかの人は『がんばれ〜』って声をかけたりハイタッチしたりしてるんです。人に対する疑いがないんだな、なんかいいなって思いました」

 心のゆとりがあると、人を疑わずにそのまま受け入れることができる。「ニューヨークにはいろいろな人がいるから当然かもしれませんが、『こういう人もいる、人それぞれだよね』っていうところから、個性を認め合える環境が日本にもあればって考えさせられます」。人のまねをする中で「自分」を見出し、やりたいことを見つけ、自らで道を切り開いてきたからこそ、「違い」に対して考え悩み続けてきた。「違い」なんて笑い飛ばしたい。業界に不信感を抱かずに、自分の表現を届けることに集中したい。ニューヨークでのエンタメ留学と生活で“充電”した渡辺は、「ゼロからの出発」を覚悟して、日本に戻ったのだった。

仕事に熱と愛を 試行錯誤がいいものをつくる  「いくら才能があっても、やる気がないならできない。逆にやる気があれば何でもできる」。渡辺はこれまで、何度も芸人を諦めた仲間の背中を見てきた。「なんで辞めるの?後悔するよ」と引き止めようとしたという。しかし、あるとき気がついた。「仕
事に情熱をもっていない人は後悔なんて感じない」と。一方で、自分のやる気と熱があれば、何でもできる。「これはやりたくない」といったところで、「いま自分がいる場所で笑いをとれないヤツは、どこに行っても無理」なのだ。ライブトークでは出演するメンバーを確認し、自分はどう出ればいいのかイメージトレーニングの上、カードを用意しておく。終わったら終わったで、反省会も毎回する。「なぜみんな、自分と同じようにできないのか」というやるせない気持ちを抱えながらも、渡辺はそこにエネルギーを費やしてきた。

 また、「お客さんをおいてけぼりにする身内トークはしたくない」と語る渡辺。その姿勢は、今年2月に発表した、自身がプロデュースするアパレルブランドPUNYUSでも貫いている。ぽっちゃりだろうが服の好みはいろいろで、さらには腕を出すのが平気な人もいれば恥ずかしくて出せない人もいる。ウエストは細いけどお尻が大きい、上半身はやせ形だけど下半身は太い、胸は無いけどお腹は出てるなど、いろいろなタイプがいる。ひとり一人を「おいてけぼり」にしないため、さまざまなラインをそろえている。

 PUNYUSの誕生はそもそも、「普通の細い女の子の服のジャンルはあんなにあるのに、なんで太めの女の子の服のジャンルは一つ二つしかないのか」という疑問から。女の子の柔らかい感触をイメージさせる、「ぷにゅ」、というオノマトペをブランドの名前に入れ、「女の子の持つ感情を表現する」というコンセプトを掲げている。ブランドのモデルとして、「かわいい雰囲気」「クールな雰囲気」「お茶目な雰囲気」を瞬時で表現する渡辺を見ていると、おしゃれをするドキドキやワクワクが加速する。

 PUNYUSは渡辺にとって、「新しい表現の場」でもある。「私のことを『お笑い』としては興味がないって方も、PUNYUSですごい興味を持ってくださった」。いろいろなニーズに応えられるように、「チームで試行錯誤して、いいものをつくっていきたい」と語る。
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一人は「独り」ではない 自分と相手の意見を生かす  走り続けてきた渡辺を支えてきたのは、やはり「お客さん」だった。自分でわけが分からなくなるようなとき、必ずといっていいほど、ウェイクアップコールのようにファンからのメールがきたという。「鬱病でずっと笑えなかったんですけど、直美さんのものまねを見て笑うことができました」。そんな声を聞く度に、「この仕事をやっていてよかった」と心の底から思える。ニューヨークでもそんな出会いがあった。「ここにも見ていてくれる人がいる」という事実に、「もっと成長しなきゃ」と強く思う。それは喜びでもありプレッシャーでもある。そして彼女はプレッシャーから逃げない。

 なぜなら渡辺のモチベーションは「他人の幸せ」だからだ。コントを見て笑ってほしい。ファッションでハッピーな気持ちになってほしい。「自分のことばっかりに必死だと、性格が悪くなっていくのが分かるんです。だからそこにエネルギーは使いたくない。私はお客さんを見ていたい。流されずに、自分の意志をしっかり持って、表現したい」

 流されないといっても、自分の意見を押し通すというわけではない。渡辺は、「もの」は一人の意見よりもみんなの意見でつくった方がいいと信じている。例えばコント。思いつきでアイデアをわーっと話すタイプの彼女には、頼りになる同期の作家がいる。渡辺の「わー」をタイプしてくれるのだ。それを見ながらスタッフと「こうしたら面白いかも」と切磋琢磨してつくりあげる。「だからといって、それがウケるわけじゃないんですけど、一人で舞台に立ったとき、みんながいると思うと、すごく安心するんです。一人だけど独りじゃない」

 単独ライブの顔、テレビの顔、CMでの顔、PUNYUSでの顔。渡辺には数々の顔があり、それを使い分けている。そして、それぞれのシーンで求められている「渡辺直美」の顔を、プロとして見せたいと考えている。それにしてもだ。「自分を分厚くしたい」と語り、ニューヨークで一皮も二皮もむけたのだろう渡辺は、一体どんな表現で、私たちに新しい顔を見せてくれるのだろうか。

http://store.punyus.jp/

Photographer: Kuo-Heng Huang
Writer: Kei Itaya

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